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TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

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小話:香 【職業、仕事人】 …天崎李玖

「おや、もう帰るのかい?」

気怠い仕草で女がその身を起こす。
「そろそろ戻らないと木戸が閉まってしまいますから」
泊まっていけばいいのに、と寄り掛かる手をやんわりとほどく。

「冷たいこと。いい人の所へお帰り?」

いい人がいたらここにいないでしょう?
ゆったりと笑い、枕元に置いてあった刀をきり、と帯に差す。
女は男が武士であった事を今更ながらに意識した。もっとも、男の持つ、どこか崩れたような華やかさは、武士を演じる役者のそれに近く、気安さを違えるものにはならなかったのだが。

「隣りに綺麗な後家が越して来たんだろう?」
「よくご存知ですね。近所とはいえ、怖いもんだ」
提灯を受け取り、からからと笑う。
「女は女の話には敏感なものさ。特に後家同士ときちゃあさ」
「確かにね」
綺麗な人でしたが…
空いた手が女の頬に触れ、指が淡い紅を引いた唇をなぞった。
「赤い紅は嫌いでして。なんだか血を吐いたみたいでしょう?」

かり。
触れた指を噛み、女が笑う。
「おや赤が嫌いとは思わなかったよ。あんた、なんだかとても赤が似合うから好きなんだと思ってた」
「? 赤なんて身に着けちゃいませんが…」
「そうなんだけどさ」

「あんたはいつも赤をまとってる、そんな感じがするんだよ」

男はしばし考え。
「血の匂いがするからでしょうかね」
「え?」
「いえ、近所さまとは上手くやっていきたいものでね。わざわざお隣りの床に潜り込んで面倒の種をまいてくる気はありませんよ」
やわりと笑い外に出ると乾いた風が頬をなでた。
月をともに歩き始めた男が楽しげにつぶやく。げに恐ろしきは女の勘なり、と。

「旦那じゃないけど私も匂い袋買おうかな」
これほどしみこんだら消えるものではないけれど。


-了-
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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品


作:天崎李玖

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