猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

小話:おもいだせない【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …天崎李玖

!! Caution !!
※本編6話終了後・ネタバレを含みます※



「飽きちゃったとはいえ…」

香辛料を片づけるのを手伝いながら、アクリィがぼそり、とつぶやいた。

「こうやって夜営しながらだと…カレー食べるの、楽しいのよねぇ」

にっこりと笑ったオザックが、手際よく余った材料を片づけていく。
「カレーは人を幸せにするんじゃよ」
「んー。それってオザックがそう思って作るからだろ?」
「パピヨン?」
「オザックが、『カレーを食べれば幸せになる』と思ってカレーを作る。俺たちが幸せに
なればいいなと思ってつくるわけだ」
「ああ、そっか!作り手が幸せにしたいって思って作るんだもん、美味しいよね。…ってか
パピヨン、結構ロマンチストね」
「いや、そういうんじゃねーよ。ただ、今考えてたコトと内容がかぶったからさー」

からん。

整えた薪を無造作に火にくべる。
ゆらゆらと赤い炎に巻き込まれていく様を見つめる瞳は、ひどく憂鬱そうだった。

「……」
レッドが、肩越しにカップを渡す。ふわり、と香草の香りが立ち上る。
「ありがとよ」
「何考えてたんだい?」
「夕飯準備中、ずうっと聞こえてた、あの空元気な歌声」
「ああ…あれ、ね」
横に腰掛けたアクリィがため息をついた。
「正直、パピヨンみたいにわかりやすく落ち込んでくれると助かるんだけどね」
「…わかりやすくて悪かったな」
「いや、ほめてるんじゃないかの? ワシ、今のレオじゃ、何言っていいのか困る」
「そうなのよね。ある意味、わかりやすく落ち込んでくれるのも、気遣いの一つの様な気がしてきたわよ。あそこまでくると」
げそっ、と長い耳がたれる。

「つまり。気が回せないくらい落ち込んでるってことか」
「なにせ『いのち』だしねぇ」

ぱちぱちと薪がはぜる。

「そうじゃ、パピヨン」
「あ?」
「なんで、カレーとレオの歌がかぶるんじゃ?」
「ああ…。作り手の思いがこもってる、ってこと」
「??」
「アクリィ、わかるか?」

私にわからないわけないよ。
いたずらっ子の眼差しが、そう、笑った。

「曲調は楽しそうなのに、なんかあの歌きいてると気が滅入らない?どんなに元気に振る舞っても、歌は正直なのよ」
「心がこもってるから?」
「…すごいな、レッド」
「ずいぶん、成長したのう」
「人が鈍感、みたいな言い方、やめてくれないかな?」

その時。
みんなが頭に浮かべた台詞は、多分、同じ。





炎から離れて。
湖の岸には妙にぴかぴかに磨かれた食器が積まれていく。

はぁ。

ため息で曇った部分をまた、磨く。
ゆっくりと洗っても、これで最後だった。

「なんか、疲れた…」

ついでに顔も洗ってみる。
ずいぶん泣いたせいで、腫れたまぶたに、冷たい水が心地よい。

どれだけぼんやりしていたのか。
後ろに現れた人影に気づかず。

「だぁれだっ!」

ぽん。

やや前屈みだった体勢は思いの外不安定だったらしく、そのまま、湖へ。

「うわぁぁぁぁっっ」
「レ、レオさんっ?!」

ばしゃん。

勢いよく、つっこんだのだった。


「う、嘘?そんなに力入れてないですよ?」
「げほ…っ、レイア、脅かさないでくれ…おぼれるかと思った」
「…こんな浅いところでおぼれたりしませんよ」
「知らないのか?エール一杯分で人は溺れるんだぞ?」
「四つんばいですごんでも、だめですよ。…ずぶぬれになっちゃいましたね」
「誰のせいだ、誰の」
「ほら、水の滴るいい男って言うじゃない?かっこいいですよ」
屈託なく笑いながら、右手を差し出す。
その手を取りながら、ビーチバレーの件と言い、実はすごい怪力なのではなかろうか、と考えるレオだった。


「それ、脱いだ方がいいんじゃないかしら?濡れた服を着ているとかえって風邪をひくみたいですよ?」
「確かに…って…」

襟にかかった手がとまる。

「どうしました?」
「男の着替えをのぞくのが、趣味だとはしらなかったな」
「ええと…別に趣味ではないですが、見ていちゃだめかしら?」

別におもしろいものではないから、と呟いた横顔が月明かりの下でも随分赤かったので。
レイアは笑いをこらえるのに苦労する。

でも、レオさん。それは食器を拭いていた布なのですが…。

「あら?」
「は?」
「あんなに巨大なハープ、背負ってるからてっきり…」

きょとん、と瞬いた藍色の瞳が自嘲気味に細められた。

「私は貧弱な魔術師だからね。大体、あれが見た目通りの重さだったらパピヨンでも持てないと思うよ?」
「そ、それはそうかも…でも、とても大きかったですよね?」

それに、歩く度にずしん、ずしん、とかいっていたような。

おおかたの水気を拭き取った手が、困った、といった風に前髪をかきあげる。
「説明が難しいようなお話?」
「その通り。6年前、友人達から選別にもらったんだ。…その友人達っていうのが当時の私と一緒で駆け出しの魔術師だったんでね。…いろいろと」
「いろいろと、ね」
「いろいろと、だ…で、いつまでこっち、見てるかな?」
「…あらあら、見とれちゃいました…赤いですよ?」
「……ぬれた服があるから、食器を半分、もっていただけるかな、悪趣味なお嬢さん?」
普段からは想像もつかない、おおざっぱな身のこなしでたき火の方に歩いていく背中を見ながら、レイアはくすり、と笑みをもらした。

「悪趣味かしら?」
「悪趣味だね」
「細い方だけど、綺麗なんだもの。見たっていいじゃないですか」

どんがらがっしゃん。

腕から落ちた鍋達が盛大な音を立てた。


ぱちぱち。

薪が静かに赤い炎を揺らす。
レッドが剣の手入れをし、その膝によりかかり、アクリィが眠っている。
オザックは材料の仕込みなのかごりごりと乾燥した草をつぶしていたし、パピヨンは炎を明かりに本を読んでいた。

レイアは先ほどから黙ったままの吟遊詩人の横顔を見ていた。
レッドのマントを巻き付けて、両手でカップを持っている様子が思ったより子どもっぽくて、何となく目が離せなかったから。
ふい、と目があった。
困ったように数回瞬き、また炎を映す。
意外と照れ屋なのかもしれない。

「あの…」
「うん?」
「やっぱり、お友達の思い出ですし、大切なものだったんですよね?」

ぴく。

レオより他のメンバーの顔があがる方が先だった。

…ずいぶん直球だなぁ。
パピヨンが本の間から片目だけのぞかせる。


「どうかな」


意外な返事に、オザックの手が止まる。

「確かに…手元からなくなった、と思ったら泣けるくらい、大切だったのかもしれないんだが…」

ぎゅっ、とカップを持つ手に力がこもる。

「大切で、大切で、ずうっと大切にしてきて…でも、多分違うんだ。大切にしてきたのは友人達の思いだったはずなのに、違うことで悲しんでいて。…それに気づいてよけいに落ち込んでいる」


変な話だ。

唇の動きだけでそう言って、笑った。


友情の証と、仕事の誇り。
一緒に持っていた、と思ったのに。

いつ、すり替わっていたのか、おもい、だせない。


「変な、話をしてしまったな。みんなにも迷惑かけてるし…今日の私は格好悪い」


そんなことはないです。

そう、今言っても、どうにもならないような気がして、レイアは自分のカップに口をつけた。


レッドの入れてくれたお茶は美味しくて。
長くなりそうな夜も、どうにかなりそうな、そんな気がした。





ヤマもオチもないですね。なんか、下手なラブシーンより、こういうの照れくさいです。
レイアさんは爆弾発言、地雷発言が似合う女性だと思います。




作:天崎李玖


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