猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

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小話:春カレー【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …KAZ-屋

!! Caution !!
※本編エンディング後の内容を含みます※





ほほを掠める風に、昨日には感じなかった暖かさを感じてぱぴよんは目を細めた。
一つ二つと、桃色の花びらが目の前を散ってゆく。

「ああ、もうそんな時期か」

誰に聞かせるともなく一人ごちて、ふと苦笑した。最近どうも独り言が多い気がする。
「年かなぁ」そんな思いまでもが独り言として口からこぼれ、己の失笑を買う。


既に冒険者としては古参の域に入った頃から、一人旅をすることが増えた。
特に一匹狼を気取ったわけではないが、ひとつのパーティーに長居することなく、根無し草のように漂う。そんな生活のうちにいつのまにかついた癖。

ふと、歩いてきた過去を漫ろに思い出し、過ぎた年月に思い馳せた。
年を重ねた分程に人として成長したとは思えないが、過ごした季節の数だけ、確実に年輪は増えている。
それを証明するように、最近では旅のペースが随分とゆったりしてきたし、無茶が減った。
今日とて、この町に寄ったのは、ここから数日を逗留する宿を求めての事だ。
5年も昔なら適当なところまで歩いて気ままに野宿でもしていたろう。


気持ちは若いままだったが、気がつくと人並みに年は取っていたようだ。
「さて、ほけっとしてないで宿でも探すか」
すっかり定着した独り言を伴って、まだ遠い喧騒へ向かって歩き出した。





街は午後の活気に満ちていた。まだ日が高いこともあって種々様々な格好の人間が
歩いている。大半が、前あわせの洋服を帯で留めた「キモノ」を着ている。どうやらイーストエンドの圏内に入ったらしい。
あの戦いから十数年、旅の間幾度かこのあたりに来た事があるが、この服装を見ると彼を思い出す。

戦闘時は西方風の鎧を身にまとっていたが、普段身に付けているのは東方風の物が多かった。夏祭りの時期などは、皆でユカタを仕立てて身に付けたこともあった。
「・・・なつかしいな」
つぶやくとともに、今日の方針を一つだけ決定した。
今日は部屋着にユカタを置いている宿を探そう。


見つけた宿は、街中から程よく離れたイーストエンド風の建物だった。
5日ほどの逗留を告げ部屋を取る。部屋の調度もやはり東風の造りで、幾度か尋ねた彼の部屋を思い出す。
クローゼットを開いてユカタを取り出すと袖を通す。頼んだわけでもないのに、懐かしい濃い鼠色のユカタに思わず見とれた。


「せっかくだから皆色を合わせてみたんだ」
そういって彼が取り出したユカタは、紺桔梗・山吹・紅梅・萌黄・唐茶など屋敷中の分を作ったらしかった。
わざわざ一着づつ染料の指定までしてあつらえた品だったらしい。楽しそうに聞きなれない色の名を解説する彼自身は紅海老茶色を身に着けていた。


黒だけは、縁起が悪いからこれで勘弁してくれ。と取り出されたのは濃い灰色に薄い灰が柳のように散ったものだった。墨染めは弔いの色だからさ。と言った彼の表情を覚えている。
たしか、藍墨茶 という色だと言っていた。



結局ユカタのあわせを間違い、弔いどころか自らが死体となってしまっていたのを宿の女将に笑いながら直され、そのまま夕涼みをかねて街へ出た。

たどりついた時は太陽が頭上を越したくらいだったが、今は随分と地平に近くなり、空気を蜂蜜色に染めている。あと数刻もしないうちに空を朱に染めて去っていくだろう。

ユカタにゾウリのまま夕暮れ時の街をふらふらと歩く。途中雑貨屋によって東風の小銭入れを買って帯に差し込む。店主が「粋だね」と一声かけて送り出す。片手を挙げて葡萄茶の暖簾をくぐり通りへ戻った時。ふと、何かが気にかかり、足を止め
た。
なんてことはない町の大通、その一角。一瞬だけ「何か」に気をとられた。


殺気ではない、けれど、見逃せなかった何か。
何者から発せられたというよりは、自分が勝手に感じ取った違和感。

いや違和感というには妙に穏やかな感覚。
そう、とても懐かしい人にあったかのような。
思わずあたりを見渡す。ひょっとして意識もしないほど視界の隅に、見知った顔を見つけていたのではないかと思って。
しかし期待は外れ、誰も---誰かに似た人物さえ見つけられない。

思い過ごしかと歩を進めようとしたとき、風がその正体を運んできた。
「…カレー?」
風に乗ってきたのは嗅ぎ慣れた香辛料の香り。
元をたどるとそう離れていないところにある食堂からのようだ。

誘われるように店の前までくると、暖簾に漢字で店名が書いてある。
「…?た・や?」
とりあえず読む努力はしてみるが3文字あるうちの最初の一文字が読めない。
東方語も日常会話と簡単な読み書き程度は覚えたが、画数の多い漢字になるとお手上げだ。とはいえ、店名が読めないから食事ができないわけでもない。店員に聞けばすむ事だと、そのまま暖簾をくぐる。

「いらっしゃいませー」
店内にカウンター席と、テーブル席が3つ程のこじんまりとした造りだ。厨房はカウンターのすぐ向こうにあるらしく、調理師らしいおばちゃんが湯気の向こうにたってニコニコと笑っていた。

白い割烹着と三角巾を身につけて立つ様は、カレーの香り以上に懐かしい場所を思い起こさせた。
目を細めながらカウンターに座る。メニューを見ると東方語と共通語が併記してある。ありがたいと思いながら読み進めるとやはり懐かしいラインナップ。
大衆食堂では、こういうものは皆似た感じになってしまうのもなのだろうかと首をかしげながら、遠い昔に身についた習慣が無意識に注文をする。
「カレーうどんとライス。大盛りで」

カウンターの向こうのおばちゃんは「はいよ」と景気のよい受け答えとともに、うどん玉を目の前のなべへと放り込む。
カレーうどんとライスのセットは5分も立たないうちに並べられた。あまりの素早さに目を見張る。
「なんか、似すぎ」
思い出の場所にどこまでも似て、苦笑を隠さず箸を割る。いただきます、と呟いて

カレーうどんを一口食べ、一瞬躊躇。
二口を食べ長考。
残りを一気に完食して眉間にはしわが寄っていた。

カウンターの向こうではおばちゃんが客の不信な様子に気遣わしげな顔をしている。
「-----…だ」
胸のうちに湧き上がったものを、小さく、ほとんど聞こえない声で、つぶやいてみた。
口にしてみると、もうそうとしか思えない。
「…オザックの、味だ」
空になったどんぶりの、底に残った山吹色を見つめる。

間違うはずがない。
ここが例えあの街から、あの店から、遠く隔たってようとも、どれだけの時間が過ぎていようとも。
今自分が食べたのは、彼のカレーだ。

間違う、はずが、ない。


「----おばちゃん…?」
「----はい?」
緊張が伝染したのか、応える声が硬い。
「---この店の名前って、なんて読むんだ?」
「は?店の名前?ああ、漢字だから読めなかったのね」
見るからに緊張した客からの質問が、あまりに普通のものだった所為かほっとしたように相好を崩した。
「『かまだや』って読むんだよ」
「----------!!」
「慣れた風だったから、てっきり地元の人かと思ったら、旅の人だったんだねぇ」
それじゃ、読めないよねぇ。と苦笑交じりに言葉を続ける。
「本店は『KAMADA屋』って書くんだけどね。ここは東方風に漢字にしてるのさ」
「本店?」
「そう。この店は4番目の支店でね、オエドにあるKAMADA屋が本店なんだよ」
話し好きらしいおばちゃんは、カウンターから乗り出すようにして語り始めた。


本店は大旦那---ドワーフなんだけどね---カレー一筋を掲げて立ち上げた店だった
んだよ。オエドでは結構な人気だったみたいだね。昔から。
10年くらい前に娘婿が店を継いだらしいんだけど---ハーフエルフだってんだから驚いたよ、あたしゃ。
エルフとドワーフって言えば、犬猿の仲ってのが相場ってもんじゃないかい。

それからさ、アレクラストのあっちこっちに支店を作り出してね。
今じゃここも含めて6店舗くらいあるはずだよ。

それだけ作れば味も変わろうってもんなのに、2代目がまたマメでね。
何が何でも味は変えないって、定期的に支店を回ってチェックしてくんだよ。ほら、あそこの紙、抜き打ちで来ては味のチェックして、判子を押して帰ってくのさ。
だから、この店でも本店と味がおなじなんだよ?
香辛料だの何だの、全部2代目が持ってくるんだよ。これ以外使うなってさ。すごいこだわりだよねぇ。

なんだかんだと、その2代目を気に入っているらしいおばちゃんは、どんどん饒舌になってゆく。


昔は冒険者だったらしいんだよ。ひょろっとしてて、旅なんか出来そうもないように見えるのにねぇ。ああ、2代目のことだよ。
なんでもそのときの仲間が、いつどこででも自分のカレーを食べれるようにしたいんだとさ。
みんなの故郷でいたいけど、みんな旅ばっかりしてぜんぜん帰ってこないから。
故郷の方ををいっぱい作っとくことにしてみたなんて笑ってたよ。
このカレーを食べると、きっと一瞬でも戻ってきたような気になるだろうからって。だから絶対に味を変えるわけにはいかないんだとさ。
いい話さ。仲間思いの、いい人だよ。
---しかも、結構いい男だしね。

おばちゃんは、そういってにんまりと笑った。
つられて俺も笑った。

ああ、なんて。
なんて言ったらいいんだろう。
いつともわからない、たった一口のために、彼のした努力に。

もう、ずいぶん昔の彼しか思い出せないが、きっと今会ってもハーフエルフの彼は
、ドワーフである彼の細君は、あの頃とそう変わりない様子でいるだろう。

---わしのカレーはうまいじゃろう?

そう言って、揃いのエプロンをして笑うだろう。
そんな彼に、自分はなんと返したらいいだろう?

「---すごいやつだな」
かみ締めるように、つぶやいた。
「そうだろ?すごい人さ」
おばちゃんが太鼓判を押した。

涙が出るかと思った。



「ごっそさん。今度その2代目が来たら、美味かったって言っといてよ」
買ったばかりの銭入れから代金を置き席を立つ。
「はいよ。ありがとさん、ちゃんと伝えとくよ」
背中からおばちゃんの声がかかる。
ふと、思いついて振り返った。
「もうひとつ、伝言頼まれてくれるかな」
「なんだい?」
「ありがとう、って。あの頃とまったく変わらない味で、懐かしかった。と」
「え?」
おばちゃんの驚いた声を聞きながら店を出る。萌葱の暖簾をくぐると、夕闇が広がっていた。

「故郷をたくさん・・・ねぇ」
彼の思いと優しさが、胸にあふれるのを感じる。
遠く離れて、滅多に逢うことのない仲間へと送られた彼の情が、心にしみこむ。
それは、久しく忘れていた幸せの感覚。
伸びる影を追いながら、あの日の仲間たちを思い出した。
まだ若くて、突っ走っていて、いつもギリギリで、でも互いに優しかったあの頃を。

「たまには、KAMADA屋にも行ってみようか、な」

つぶやく独り言が、夜の帳に吸い込まれた。



FIN 2006.04.07



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