猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

小話:ドナドナ 【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …おじゃっく

 バタバタという騒々しい足音とともに己の部屋へと現れた客人に、レオノールは右の眉をわずかに上げた。誰かが勢いよく駆け込んでくることに驚いたのではない。そのような訪れ方をしそうにない人物であったからである。
 ラグの上にゆったりと座りながら動じることなく楽器の手入れをしていたレオノールにむかって、上気した頬、荒い息を整える暇さえ惜しんでその青年は哀願した。

「頼むっ、かくまってくれっ」
「それはかまわんが… レッド、隠れるならそこに衝立がある」

 今しがた勢いよく開け放った扉を、音を立てないように慎重に閉めてこちらに向き直ったレドルゥインは、追い詰められた草食獣のような表情をしていた。
「ありがとう、レオ。詳しいことは後で話すからっ」
 安堵したレドルゥインが背後を気にしつつ部屋を横切り、示された壁と衝立の隙間にもぐりこんでから幾度か呼吸をした後。タッタッタッという軽い足音が響きコココンと扉がノックされた。

「れおー、いるー?」

 幼い子供のような言い回し。どうやら原因の到来のようだ、と、レオノールは心の中で微笑んだ。
「開いている」

「ねぇーちょっと聞いてよ。ひどいんだよ?」
 戸口からひょこっと顔をのぞかせて部屋の中を見回した後、アクリエルはちょこんとレオノールの隣に座って言った。
「レッド、私を置いてどっかいっちゃったんだからっ!約束したのにっ」
「そうか」
 ぷんぷん、という音が似合いそうな怒りの放射にレオノールは我知らず苦笑した。

「レッドがね、故郷で妹の髪をよく結ってあげてたんだって。それでね、『じゃあ私の髪もイーストエンド風に結ってくれる?』って聞いたら『いいよ』って言ったのに途中で止めちゃったの」

 あぁ、そういえば確かに。とレオノールは思った。今のアクリエルの髪は下の方を、それも素っ気のない黒い紐でくくられているだけだった。いつもならばこのような低い位置で髪をまとめはしないし、結い上げた髪は鮮やかな色のリボンで飾られているだろう。

「レッドがね、優しく髪を梳いてくれたの。『アクリィの髪は柔らかいな』なんて言ってくれたんだよ?でも、もっとして欲しかったのにすぐ梳き終わっちゃって、こう、ね?」

 強めの口調の中に幸せを滲ませながら、アクリエルはレオノールに背を向け、髪を持ち上げて高い位置で一つにまとめる仕草をした。

「ここまで持ち上げたところで手が止まっちゃったの。それでね、あれって思ってたら、急に手をおろしてこの紐でまとめて『ごめん、アクリィ!』って言って走って行っちゃったの」

 持ち上げていた髪を崩さないように手をゆっくりとおろし、背を向けたままアクリエルは続けて言った。

「逃げられたら、追っかけたくなるじゃない!でも、今日のレッドすっごく足が速くて見失っちゃったんだ… ねぇ、私、わがままだったかな?レッド、怒っちゃったのかな?」

 くるりとレオノールに向き直ったアクリエルは、口調とは裏腹に悲しげな瞳をしていた。
「アクリィ…」
 レオノールはすっかりしょげてしまったアクリエルを前にして、衝立の陰で、事の顛末に慌てているであろうレドルゥインのことを思った。飛び出して謝罪したい気持ちと、そうするために真実を口にすることへの躊躇に揺れているであろう友人のことを。

 匿うと言った自身の言葉の重さは、アクリエルの悲しみとレドルゥインの苦悩より軽い。己の言質を売り渡してでも執り成してやらなければならないな、とレオノールは思った。

「アクリィ、レッドはアクリィに似合う髪形に迷っただけだ。気に病むことはない」
 ぽん、と、アクリエルの頭に手を置いたレオノールは、顔を上げたアクリエルに向かって右眼を閉じた。そして、あごで衝立を指し示す。

 パッと顔を輝かせたアクリエルは、勢いよく立ち上がり衝立に向かってかけていった。

「レッド、みーつけたっ。」

 精悍と呼べる身体を狭い隙間に埋め、不安定な姿勢でかがみこんでいたレドルゥインの右手にアクリエルが両腕を絡ませて引っ張ると、さすがのレドルゥインもたたらを踏んで部屋の中央に躍り出た。アクリエルはその勢いを殺さず跳ねるような足取りで扉へと向かう。

「ね、レッド。買ったばっかりの赤いリボンがあるの。結んでくれるよね?それから、この髪形に合う服も欲しいなぁ。前に行った市場のイーストエンド風のお店、あそこ行ってみよう?ねっ?じゃーねっレオ、ありがとね!」

 それはレオノールにとって、意気揚々とレドルゥインをズルズル引きずって部屋を去っていくアクリエルの弾んだ声と、「あぁ」とか「うん」とか呟きながら連れられて行く、動揺と照れと諦めの混じる潤んだレドルゥインの茶色の瞳がやけに印象に残った、ある爽やかに晴れ上がった午後のことであった。

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作:おじゃっく


自己反省 04.10.17
サブタイトル『レッド、アクリィのうなじにどぎまぎの巻』(笑
ドナドナは牛の潤んだ瞳がポイントかなと思ったのが発端でした。ごめんよレッド。君が一番牛っぽい目をしてくれそうなんだもの。レオも、彼ならこんな行動とるかな?と思ったのですが大違いだったらごめんです。あと、アクリィをもっと可愛い女の子に書きたいです。精進です。


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