猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

小話:ガラス越しに触れる【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …KAZ-屋

「パピヨーン。3番のテーブルでご指名よーん♪」
カウンターから店の裏手に向かって、陽気な声がかかる。

ここは表通りからほんの少し路地を入ったところにある小さな酒場。
目立たぬよう、それでいて隠れぬよう、微妙な店構えの割りに客の入りも悪くない中の下くらいの店。

陽気な喧騒と、たまに訳のわからない乾杯。流れの芸人が歌い、舞う。
そんな酒場の楽屋で、パピヨンは身支度を整えていた。



「ちょっと待ってよ、姐さん。オレまだ支度済んでないって」
裏口から入った瞬間に指名され苦笑する。
手早く外套と衣服を脱ぎ、仕事用の衣装に着替える。

かじかんだ指のせいでボタンを留めるのにも四苦八苦していると、店の方から一人の女性が入ってきた。
「ちょっとー、なに支度に手間取ってるの?」
攻める口調と裏腹に、口元には笑みを浮かべている。先ほど「姐さん」と呼ばれた彼女は、この店の女主人で、看板娘(本人談)

「だって、外寒かったんだもーん。手、冷えちゃって」
ほら。と差し出された指先も、にこりと笑うほほも、冷たい北風にあおられてほんのり赤い。
「仕方ないわね、留めてあげるから後ろ向いて」
今年で17を迎えようという彼の甘えた表情に、まんざらでもない様子でウインクを返した。



「…ちょっと体がしっかりしてきちゃったわねぇ。こういう衣装もそろそろ卒業かしら?」
「そだねー。思ったより成長したし。オレ最近筋トレしてるし」
衣装に合わせたアクセサリーを選びながら告げると、背後から「えー」と不満の声が上がった。
「やだわパピヨン。折角きれいな体してるのに、筋肉なんてもったいないわよ!」

ハイ出来た。とばかりに背中をたたきながら、彼女が抗議する。
痛いよ。という彼のセリフを無視して、そのまま正面に回り、衣装に合わせて薄化粧を施してゆく。
少年とも青年ともいえない不安定な存在が、化粧と衣装のせいで女性とも男性ともいえない幻想の存在へと変化する様に、うっとりとしながら彼女は微笑んだ。

「はい。出来上がり。綺麗よぉ」
「ん。ありがと、姐さん」
にこり。と紅を引いた唇で軽くほほに口付けると、早々に店へと向かう。
それを引き止めたのは、さっさと支度をしろと急かしていた当の女主人。

「ちょっとまって、パピヨン。今日の衣装ならこんなのつけても楽しいわよぉ♪」
いたずら気味に微笑みながら強引に長髪のウイッグをかぶせる。
ゆるいウェーブのアッシュシルバー。無造作にかぶせられたため、ところどころ地毛の黒髪がメッシュのように踊っている。

「やっぱりかわいー。今日はそのままお店に出なさいな」
「えー。邪魔くさいだろ」
「そんな事いわないの。じゃ、先いってるからね、ちゃんとセットしていらっしゃい」


軽やかに店内へと戻って行く彼女に手を振りながら、地毛をまとめて、ウイッグを付け直し鏡を見る。


そこにいるのは、いつもの自分より、ほんの少し線の細い印象を受ける銀髪の青年。
似通った面差しと、懐かしい色に似た銀糸の髪が、記憶の中の青年を髣髴とさせる。




とくん。と胸が鳴った。




鏡の中の彼へ微笑めば、鏡の中の彼も同じようににこりと微笑を返す。
懐かしさに瞳を潤ませれば、彼の瞳もまた懐かしげに瞬き、手を伸ばせば、同じように彼の手もパピヨンを求めるように近づいた。

その指先を合わせれば、まるでガラス越しの逢瀬のようで



「-----にいさん」

そっとつぶやくと、ガラスの向こうの彼も、何かをつぶやいた。



----バレル……

聞こえるはずのない囁きを聴く。



懐かしいその面影をもっと近くで見たくて、熱に浮かされたようにその距離を縮める。
吸い寄せられるように唇を寄せれば、かの人も同じようにまつげを伏せた。
触れ合った唇には、冷たいガラスの感触。


その無機質な感触に、飽和していた熱が一気に冷めた。


唇を離し細く目を開ければ、泣きそうな自分と鏡に移ったルージュが重なって見える。
もう、鏡の中にあの人はいない。




否、はじめからいない。




いるのは、捨てられたくせに彼を求めることをやめられない己の残像。

指の腹を強く押し付け、鏡に残る紅をふき取り、そのままこぶしを握り締めた。




店内からは、再度彼を促す声がかかる。
BGMが変わった。どうやら客からのリクエストがあったようだ。
店内の陽気な歌声を聞きながら、鏡の中に残る幻を見ないように、もう一度だけ苦く微笑む。


「メリークリスマス。兄さん」



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パピヨン17歳


作:KAZ-屋



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小話:風鈴 【職業、仕事人】 …KAZ-屋

 木を寄せて綾模様を織る。
 ふと、手にした道具の鈍い光に、もうひとつの『仕事』を思い出した。


 ソレは決まって風のない午後の、うだるような日差しの中。
 ソレは狙い済ましたかのように、家人の出払った静寂の中。
 今ここに居るのは「寄木細工職人の太一郎」でなくてはならないのに、その刃の白さを目の当たりにした途端、「暗殺者」としての自分と、その所業を思い出してしまう。



――考えてみりゃ、昼も夜もノミ振ってんだなぁ、俺。


――違うのは、砕くもんが木っ端を散らすか、血飛沫上げるか。それだけだ。



 昨夜の標的の、暖かい返り血を思い出して掌を確かめる。
 引き上げる途中でしっかりと落とした血の跡はもうない。
 ないのに。



――違いなんて、感じてるんだろうか?



 いつからか、手は人を殺すことに馴れ、己の着物を飾る返り血にも吐かなくなった。



――ひとを一人殺ったその昼に、もう何食わぬカオで木っ端を削っている…



 鬼になったのかもしれないと、思う瞬間。
 ソレを否定してくれる人は今誰もいない。


 ほんの一刻、気がつかないフリをして、目を瞑っていればいいだけなのに。
 騒がしいくらいに仲の良い子供たちや、縁日を冷やかしに行った女房が、もうすぐ帰ってくる。
 彼らさえいれば、こんな物思いは霧散する。


 なのに、今は掌に、あるはずのない血の一滴を、探すことをやめられない。

 黒く染まりそうなほど、鮮やかな朱を。



 ちりーん。



 不似合いなほど澄んだ、硝子の瀟洒な音が静かな土間に響いた。
 その音にはじかれ物思いから醒める。


 見上げた玄関には、光を背に立つおりんの姿。
 手には透き通った硝子に、赤と黄色の尾も鮮やかな金魚の模様が描かれた碗型の風鈴。


「いい音色でしょう?」
 太一郎の視線ににこりと笑ったおりんが、わざと風鈴を鳴らす。
 ちりん。ちりん。と涼を演出する音に少しずつ緊張が解ける。無意識に握り締めていたノミを、気づかれないように引き剥がした。

「随分と早かったじゃねぇか」
 パサリと、木屑を払いながら立ち上がる。
「なんか、この風鈴の音があんまり綺麗だから、早くあんたに聞かせてあげたくて」
 はい。と手渡される風鈴を指先に吊るして軽く揺らすと、さっきと同じようにちりん、となった。


 綺麗な、風鈴。 綺麗な、音。


 きっと、これを作った奴は、人を傷つけたことなどないのだろう。と妬みにも似た思いが掠める。
 綺麗な奴が作る、綺麗な硝子。
 だから、こんなにも、透き通った音色。



「――――だな」
「はい? 何か言いましたか?」
 太一郎の手から奪った風鈴を梁に下げてから、おりんが尋ねた。
「寄木細工なんて地味なモンじゃなくて、こう、風鈴みたいに綺麗なもんの職人になればよかったかなって、さ」
 おどけたように、吊るされた風鈴をつついて哂う。



 大違いだ。


 俺が作った細工たちはきっと、血の匂いがするに違いない。
 躊躇いもなく殺してきた、標的達の血の匂いが。
 脳裏に焼きついて離れない、お袋の血の匂いが。


 仇を討てとまとわりつく。
 咽るような、鉄の匂い。




「いやですよ」

 おりんの声が物思いを断ち切る。
 傍らを見ると、笑みを浮かべた瞳に出会った。


「イヤですよ、風鈴職人になんかなっちゃぁ。風鈴は夏の一時しか楽しめないけど、あんたの細工は何時だって何年だって、部屋のあちこちで私達を見守ってくれてるんですから」

 諭すように、あやすように、ころころと笑うようにおりんは続ける。

「折角あんたが作ってくれたものだもの。いつだって使っていたいし、髪を飾っておきたいじゃありませんか。いまさら職を移ったりしたら承知しませんよ」
 ぽんと、袖をたたく。
 結い上げられた髪に刺さるかんざしは、先日手隙のときに作ったものだ。
 彼女を飾るソレは、先ほどまで自分が見ていた血まみれの細工とは違う。
 同じ手が、同じように作ったものの筈なのに。なぜか違うように見えた。


「そうだな。風鈴、髪に刺して歩くわけにゃぁ、いかないもんな」
「あら、娘さんの簪には、そういうのもあるみたいですよ。夏っぽくて可愛いじゃない。…あたしも付けてみたい、かな」
「…さっきと言ってることが違うだろ? っつうか、むすめさんって年でもなかろうに」
「あら、ひどい!」
 おどけた会話が徐々に心を満たしてゆく。

「ただいまぁ! 父ちゃん父ちゃん、すごいんだぜっ、三吉さんとこの猫がな!」
「ねこがー。ねこがー」
 駆け込むように帰ってきた子供達を迎え、二人は目を合わせて笑った。
 明るい日差しの中、家には笑いが満ちている。

「ありがとよ、おりん」
 自分よりも低い位置にある肩にことりと額を乗せる。
 何を思うのかおりんも「やだよ、おっきな子供がいるよぉ」と囃しながらも振り払いはせず、じっと動かない。


「あーっ。父ちゃんずるいーっっ」
「ずるいー」
 母を取られまいと群がる子供達を抱き上げながら、騒々しくも愛しい家族に感謝する。



 いつか。

 血の匂いに浮かされて、この大切な家族を泣かすのかもしれない。
 無くすのかもしれない。


 愛しい家族よりも、堪えられぬ恨みの為に死ぬ日が来るかもしれない。



 けれど、それは「今」ではないから。


 まずは、このよじ登ってくる長男と、まとわりつく次男と、傍観する女房と、呆れ顔の親父を連れて六角屋で夕飯を食べよう。
 帰り道は遠回りして川原を歩こう。
 並べて敷いた布団の中で、子供達にお化けの話をしてやろう。


 風に揺れる風鈴の音を聞きながら。

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-了-
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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品

作:KAZ-屋

小話:雨 【職業、仕事人】 …天崎李玖

 灰をといたような空色と。
 抑揚もなく振り続き雨は。
 情けなしと恨み言を涙まじりに言う、女のようだと。
 錦糸を手繰る手を止めた男は、外をみやると、そんなことを思った。

 ふいに。
 重たい雨音に、軽やかな足音が混ざるのに気づき、織上は引き戸に手をかけた。
 立て付けの悪いそれが、出し抜けに開き。
 訪問者はぽかんと口を開け、総髪の浪人を見上げる。
「わ。鞠のお師匠様…どうして鈴がくるの、わかったの?」
「お鈴ちゃんの足音は、それこそ鈴のように軽やかですからね。…この雨の中、どうしたんですか?」
 小さな体に不釣合いな傘を織上に渡すと、あめで色濃い袖にごそごそと手をやる。
 でてきたのは。
「おや、お饅頭ですか」
「お客さんがね、鈴にってくれたの。でも、鈴一人じゃ多すぎるの。でも、でも…太一郎のおじさんちは…」
 おじいちゃんと、おばちゃんと…
 小さな指が5回曲げられるのをみやり、織上は思わず苦笑する。
「そうですねぇ、太一郎さんちで食べるには少ないですね」
「うん。だからね、お師匠様と食べようと思ったの……思ったんだけど…」
 竹の皮に包まれたお団子は、ひとつ。
「…歩いてる途中、食べちゃった。だからこれはお師匠様のぶんなの」
 織上は差し出された竹の皮をしばし見つめ。
 受け取ったそれを、ひょいと、懐にしまいこむ。
「…食べないの?」
「一人で食べてもつまらないでしょう。六角屋で餡蜜をひとつ頼みましょうね。それはお鈴ちゃんの、で、このお団子は」
 私のです。
 形のよい頤に指をそえ、ほわりと笑う。
 つられた鈴に、笑顔の花が咲く。
「さぁて、いきましょうか」
「うん!」
 手をつなごうと、伸ばされた鈴の手が空をきる。
 いつもと違う所作に瞬く目の前に傘が差し出される。
「手をつないじゃうと、お鈴ちゃんが濡れちゃうんですよ。開いてもっていてくださいね…よっ、と」
「わ!」
 ひょい、と。
 傘を持つ鈴を抱き上げ、肩に乗せると。
 すたすたと歩き出す。
「これで、濡れません」
「わぁ、高いねぇ」
「ははは…雨脚が強いですからね、少し急ぎましょう」

 普段よりはるかに高い位置から、鈴は空を見上げる。
 灰と溶かしたような、重い空の色。

「雲が…なんだか、手が届きそうだね…鈴が大人になったら、触れるようになるかなぁ…」
「うーん…私力ないですからねぇ。お鈴ちゃんが大人になったら、肩に乗せられないと思います」
「…そっかぁ。残念だね」
「というかですねぇ、お鈴ちゃんが大人になったら、私なんかと一緒に歩いたりしないでしょう?」

 なんで?

 鈴が問う。

 もう少し、大人になればわかりますよ?

 織上があいまいに笑う。


「お師匠様は、たまに泣いてるみたいに笑うの」
「?…そんなことないでしょう?」
「ううん。すごく、寂しそうだよ」
「そんなつもりはないんですけどね…私は、あまり笑うのが上手じゃないんですよ」
「そうなの?」
「はい。ですから、お鈴ちゃんがたくさん笑って、お手本を見せてくれるとうれしいですね」
「そうなの?」
「そうです」
「そうなんだ…じゃあ、鈴、大人になってもお師匠様に笑ってあげるね。お師匠様もさみしいのじゃなく、ちゃんと鈴に笑ってくれるよう、練習してね」

 にこり。

 灰色の雨の中。
 淡く、こぼれる、りん、とした笑みは。
 雨にまみれても、やさしいあり方で。
 紫陽花のそれににていると。
 男は、そんなことを、思った。



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-了-
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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品


作:天崎李玖


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小話:香 【職業、仕事人】 …天崎李玖

「おや、もう帰るのかい?」

気怠い仕草で女がその身を起こす。
「そろそろ戻らないと木戸が閉まってしまいますから」
泊まっていけばいいのに、と寄り掛かる手をやんわりとほどく。

「冷たいこと。いい人の所へお帰り?」

いい人がいたらここにいないでしょう?
ゆったりと笑い、枕元に置いてあった刀をきり、と帯に差す。
女は男が武士であった事を今更ながらに意識した。もっとも、男の持つ、どこか崩れたような華やかさは、武士を演じる役者のそれに近く、気安さを違えるものにはならなかったのだが。

「隣りに綺麗な後家が越して来たんだろう?」
「よくご存知ですね。近所とはいえ、怖いもんだ」
提灯を受け取り、からからと笑う。
「女は女の話には敏感なものさ。特に後家同士ときちゃあさ」
「確かにね」
綺麗な人でしたが…
空いた手が女の頬に触れ、指が淡い紅を引いた唇をなぞった。
「赤い紅は嫌いでして。なんだか血を吐いたみたいでしょう?」

かり。
触れた指を噛み、女が笑う。
「おや赤が嫌いとは思わなかったよ。あんた、なんだかとても赤が似合うから好きなんだと思ってた」
「? 赤なんて身に着けちゃいませんが…」
「そうなんだけどさ」

「あんたはいつも赤をまとってる、そんな感じがするんだよ」

男はしばし考え。
「血の匂いがするからでしょうかね」
「え?」
「いえ、近所さまとは上手くやっていきたいものでね。わざわざお隣りの床に潜り込んで面倒の種をまいてくる気はありませんよ」
やわりと笑い外に出ると乾いた風が頬をなでた。
月をともに歩き始めた男が楽しげにつぶやく。げに恐ろしきは女の勘なり、と。

「旦那じゃないけど私も匂い袋買おうかな」
これほどしみこんだら消えるものではないけれど。


-了-
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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品


作:天崎李玖

小話:香 【職業、仕事人】 …ふじもとたらう

”仕事”の後にな。


あの赤い紅い鉄錆の臭いが、やけに鼻についてさ。
そいつがいつまでも纏わりついているような気がしてなぁ。
どうにも落ち着かなくて、匂い袋をひとつ、買ったんだ。

……そうしたらさ。


”やめたほうがいいですよ、旦那。逆に、臭いますし”


なぁんて事を言いやがったんだな、あの野郎が。


”お前さんは、鼻が利きすぎるんだよ”


そう返してはみたものの、確かにこんなもんで誤魔化しきれるもんじゃあ無かったんだよな、あの臭いはよ。
……すっかり染みついちまってるし。


そう思ったら馬鹿らしくて、すぐに捨てちまったな。


-了-


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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録。
崎山にもこういう時期があったらしいというお話。



作:ふじもとたらう

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