猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

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05冬しおり【職業、仕事人】

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05年冬コミで使用したしおり用イラスト。

制作:KAZ-屋

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小話:春カレー【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …KAZ-屋

!! Caution !!
※本編エンディング後の内容を含みます※





ほほを掠める風に、昨日には感じなかった暖かさを感じてぱぴよんは目を細めた。
一つ二つと、桃色の花びらが目の前を散ってゆく。

「ああ、もうそんな時期か」

誰に聞かせるともなく一人ごちて、ふと苦笑した。最近どうも独り言が多い気がする。
「年かなぁ」そんな思いまでもが独り言として口からこぼれ、己の失笑を買う。


既に冒険者としては古参の域に入った頃から、一人旅をすることが増えた。
特に一匹狼を気取ったわけではないが、ひとつのパーティーに長居することなく、根無し草のように漂う。そんな生活のうちにいつのまにかついた癖。

ふと、歩いてきた過去を漫ろに思い出し、過ぎた年月に思い馳せた。
年を重ねた分程に人として成長したとは思えないが、過ごした季節の数だけ、確実に年輪は増えている。
それを証明するように、最近では旅のペースが随分とゆったりしてきたし、無茶が減った。
今日とて、この町に寄ったのは、ここから数日を逗留する宿を求めての事だ。
5年も昔なら適当なところまで歩いて気ままに野宿でもしていたろう。


気持ちは若いままだったが、気がつくと人並みに年は取っていたようだ。
「さて、ほけっとしてないで宿でも探すか」
すっかり定着した独り言を伴って、まだ遠い喧騒へ向かって歩き出した。





街は午後の活気に満ちていた。まだ日が高いこともあって種々様々な格好の人間が
歩いている。大半が、前あわせの洋服を帯で留めた「キモノ」を着ている。どうやらイーストエンドの圏内に入ったらしい。
あの戦いから十数年、旅の間幾度かこのあたりに来た事があるが、この服装を見ると彼を思い出す。

戦闘時は西方風の鎧を身にまとっていたが、普段身に付けているのは東方風の物が多かった。夏祭りの時期などは、皆でユカタを仕立てて身に付けたこともあった。
「・・・なつかしいな」
つぶやくとともに、今日の方針を一つだけ決定した。
今日は部屋着にユカタを置いている宿を探そう。


見つけた宿は、街中から程よく離れたイーストエンド風の建物だった。
5日ほどの逗留を告げ部屋を取る。部屋の調度もやはり東風の造りで、幾度か尋ねた彼の部屋を思い出す。
クローゼットを開いてユカタを取り出すと袖を通す。頼んだわけでもないのに、懐かしい濃い鼠色のユカタに思わず見とれた。


「せっかくだから皆色を合わせてみたんだ」
そういって彼が取り出したユカタは、紺桔梗・山吹・紅梅・萌黄・唐茶など屋敷中の分を作ったらしかった。
わざわざ一着づつ染料の指定までしてあつらえた品だったらしい。楽しそうに聞きなれない色の名を解説する彼自身は紅海老茶色を身に着けていた。


黒だけは、縁起が悪いからこれで勘弁してくれ。と取り出されたのは濃い灰色に薄い灰が柳のように散ったものだった。墨染めは弔いの色だからさ。と言った彼の表情を覚えている。
たしか、藍墨茶 という色だと言っていた。



結局ユカタのあわせを間違い、弔いどころか自らが死体となってしまっていたのを宿の女将に笑いながら直され、そのまま夕涼みをかねて街へ出た。

たどりついた時は太陽が頭上を越したくらいだったが、今は随分と地平に近くなり、空気を蜂蜜色に染めている。あと数刻もしないうちに空を朱に染めて去っていくだろう。

ユカタにゾウリのまま夕暮れ時の街をふらふらと歩く。途中雑貨屋によって東風の小銭入れを買って帯に差し込む。店主が「粋だね」と一声かけて送り出す。片手を挙げて葡萄茶の暖簾をくぐり通りへ戻った時。ふと、何かが気にかかり、足を止め
た。
なんてことはない町の大通、その一角。一瞬だけ「何か」に気をとられた。


殺気ではない、けれど、見逃せなかった何か。
何者から発せられたというよりは、自分が勝手に感じ取った違和感。

いや違和感というには妙に穏やかな感覚。
そう、とても懐かしい人にあったかのような。
思わずあたりを見渡す。ひょっとして意識もしないほど視界の隅に、見知った顔を見つけていたのではないかと思って。
しかし期待は外れ、誰も---誰かに似た人物さえ見つけられない。

思い過ごしかと歩を進めようとしたとき、風がその正体を運んできた。
「…カレー?」
風に乗ってきたのは嗅ぎ慣れた香辛料の香り。
元をたどるとそう離れていないところにある食堂からのようだ。

誘われるように店の前までくると、暖簾に漢字で店名が書いてある。
「…?た・や?」
とりあえず読む努力はしてみるが3文字あるうちの最初の一文字が読めない。
東方語も日常会話と簡単な読み書き程度は覚えたが、画数の多い漢字になるとお手上げだ。とはいえ、店名が読めないから食事ができないわけでもない。店員に聞けばすむ事だと、そのまま暖簾をくぐる。

「いらっしゃいませー」
店内にカウンター席と、テーブル席が3つ程のこじんまりとした造りだ。厨房はカウンターのすぐ向こうにあるらしく、調理師らしいおばちゃんが湯気の向こうにたってニコニコと笑っていた。

白い割烹着と三角巾を身につけて立つ様は、カレーの香り以上に懐かしい場所を思い起こさせた。
目を細めながらカウンターに座る。メニューを見ると東方語と共通語が併記してある。ありがたいと思いながら読み進めるとやはり懐かしいラインナップ。
大衆食堂では、こういうものは皆似た感じになってしまうのもなのだろうかと首をかしげながら、遠い昔に身についた習慣が無意識に注文をする。
「カレーうどんとライス。大盛りで」

カウンターの向こうのおばちゃんは「はいよ」と景気のよい受け答えとともに、うどん玉を目の前のなべへと放り込む。
カレーうどんとライスのセットは5分も立たないうちに並べられた。あまりの素早さに目を見張る。
「なんか、似すぎ」
思い出の場所にどこまでも似て、苦笑を隠さず箸を割る。いただきます、と呟いて

カレーうどんを一口食べ、一瞬躊躇。
二口を食べ長考。
残りを一気に完食して眉間にはしわが寄っていた。

カウンターの向こうではおばちゃんが客の不信な様子に気遣わしげな顔をしている。
「-----…だ」
胸のうちに湧き上がったものを、小さく、ほとんど聞こえない声で、つぶやいてみた。
口にしてみると、もうそうとしか思えない。
「…オザックの、味だ」
空になったどんぶりの、底に残った山吹色を見つめる。

間違うはずがない。
ここが例えあの街から、あの店から、遠く隔たってようとも、どれだけの時間が過ぎていようとも。
今自分が食べたのは、彼のカレーだ。

間違う、はずが、ない。


「----おばちゃん…?」
「----はい?」
緊張が伝染したのか、応える声が硬い。
「---この店の名前って、なんて読むんだ?」
「は?店の名前?ああ、漢字だから読めなかったのね」
見るからに緊張した客からの質問が、あまりに普通のものだった所為かほっとしたように相好を崩した。
「『かまだや』って読むんだよ」
「----------!!」
「慣れた風だったから、てっきり地元の人かと思ったら、旅の人だったんだねぇ」
それじゃ、読めないよねぇ。と苦笑交じりに言葉を続ける。
「本店は『KAMADA屋』って書くんだけどね。ここは東方風に漢字にしてるのさ」
「本店?」
「そう。この店は4番目の支店でね、オエドにあるKAMADA屋が本店なんだよ」
話し好きらしいおばちゃんは、カウンターから乗り出すようにして語り始めた。


本店は大旦那---ドワーフなんだけどね---カレー一筋を掲げて立ち上げた店だった
んだよ。オエドでは結構な人気だったみたいだね。昔から。
10年くらい前に娘婿が店を継いだらしいんだけど---ハーフエルフだってんだから驚いたよ、あたしゃ。
エルフとドワーフって言えば、犬猿の仲ってのが相場ってもんじゃないかい。

それからさ、アレクラストのあっちこっちに支店を作り出してね。
今じゃここも含めて6店舗くらいあるはずだよ。

それだけ作れば味も変わろうってもんなのに、2代目がまたマメでね。
何が何でも味は変えないって、定期的に支店を回ってチェックしてくんだよ。ほら、あそこの紙、抜き打ちで来ては味のチェックして、判子を押して帰ってくのさ。
だから、この店でも本店と味がおなじなんだよ?
香辛料だの何だの、全部2代目が持ってくるんだよ。これ以外使うなってさ。すごいこだわりだよねぇ。

なんだかんだと、その2代目を気に入っているらしいおばちゃんは、どんどん饒舌になってゆく。


昔は冒険者だったらしいんだよ。ひょろっとしてて、旅なんか出来そうもないように見えるのにねぇ。ああ、2代目のことだよ。
なんでもそのときの仲間が、いつどこででも自分のカレーを食べれるようにしたいんだとさ。
みんなの故郷でいたいけど、みんな旅ばっかりしてぜんぜん帰ってこないから。
故郷の方ををいっぱい作っとくことにしてみたなんて笑ってたよ。
このカレーを食べると、きっと一瞬でも戻ってきたような気になるだろうからって。だから絶対に味を変えるわけにはいかないんだとさ。
いい話さ。仲間思いの、いい人だよ。
---しかも、結構いい男だしね。

おばちゃんは、そういってにんまりと笑った。
つられて俺も笑った。

ああ、なんて。
なんて言ったらいいんだろう。
いつともわからない、たった一口のために、彼のした努力に。

もう、ずいぶん昔の彼しか思い出せないが、きっと今会ってもハーフエルフの彼は
、ドワーフである彼の細君は、あの頃とそう変わりない様子でいるだろう。

---わしのカレーはうまいじゃろう?

そう言って、揃いのエプロンをして笑うだろう。
そんな彼に、自分はなんと返したらいいだろう?

「---すごいやつだな」
かみ締めるように、つぶやいた。
「そうだろ?すごい人さ」
おばちゃんが太鼓判を押した。

涙が出るかと思った。



「ごっそさん。今度その2代目が来たら、美味かったって言っといてよ」
買ったばかりの銭入れから代金を置き席を立つ。
「はいよ。ありがとさん、ちゃんと伝えとくよ」
背中からおばちゃんの声がかかる。
ふと、思いついて振り返った。
「もうひとつ、伝言頼まれてくれるかな」
「なんだい?」
「ありがとう、って。あの頃とまったく変わらない味で、懐かしかった。と」
「え?」
おばちゃんの驚いた声を聞きながら店を出る。萌葱の暖簾をくぐると、夕闇が広がっていた。

「故郷をたくさん・・・ねぇ」
彼の思いと優しさが、胸にあふれるのを感じる。
遠く離れて、滅多に逢うことのない仲間へと送られた彼の情が、心にしみこむ。
それは、久しく忘れていた幸せの感覚。
伸びる影を追いながら、あの日の仲間たちを思い出した。
まだ若くて、突っ走っていて、いつもギリギリで、でも互いに優しかったあの頃を。

「たまには、KAMADA屋にも行ってみようか、な」

つぶやく独り言が、夜の帳に吸い込まれた。



FIN 2006.04.07



小話:風鈴 【職業、仕事人】 …KAZ-屋

 木を寄せて綾模様を織る。
 ふと、手にした道具の鈍い光に、もうひとつの『仕事』を思い出した。


 ソレは決まって風のない午後の、うだるような日差しの中。
 ソレは狙い済ましたかのように、家人の出払った静寂の中。
 今ここに居るのは「寄木細工職人の太一郎」でなくてはならないのに、その刃の白さを目の当たりにした途端、「暗殺者」としての自分と、その所業を思い出してしまう。



――考えてみりゃ、昼も夜もノミ振ってんだなぁ、俺。


――違うのは、砕くもんが木っ端を散らすか、血飛沫上げるか。それだけだ。



 昨夜の標的の、暖かい返り血を思い出して掌を確かめる。
 引き上げる途中でしっかりと落とした血の跡はもうない。
 ないのに。



――違いなんて、感じてるんだろうか?



 いつからか、手は人を殺すことに馴れ、己の着物を飾る返り血にも吐かなくなった。



――ひとを一人殺ったその昼に、もう何食わぬカオで木っ端を削っている…



 鬼になったのかもしれないと、思う瞬間。
 ソレを否定してくれる人は今誰もいない。


 ほんの一刻、気がつかないフリをして、目を瞑っていればいいだけなのに。
 騒がしいくらいに仲の良い子供たちや、縁日を冷やかしに行った女房が、もうすぐ帰ってくる。
 彼らさえいれば、こんな物思いは霧散する。


 なのに、今は掌に、あるはずのない血の一滴を、探すことをやめられない。

 黒く染まりそうなほど、鮮やかな朱を。



 ちりーん。



 不似合いなほど澄んだ、硝子の瀟洒な音が静かな土間に響いた。
 その音にはじかれ物思いから醒める。


 見上げた玄関には、光を背に立つおりんの姿。
 手には透き通った硝子に、赤と黄色の尾も鮮やかな金魚の模様が描かれた碗型の風鈴。


「いい音色でしょう?」
 太一郎の視線ににこりと笑ったおりんが、わざと風鈴を鳴らす。
 ちりん。ちりん。と涼を演出する音に少しずつ緊張が解ける。無意識に握り締めていたノミを、気づかれないように引き剥がした。

「随分と早かったじゃねぇか」
 パサリと、木屑を払いながら立ち上がる。
「なんか、この風鈴の音があんまり綺麗だから、早くあんたに聞かせてあげたくて」
 はい。と手渡される風鈴を指先に吊るして軽く揺らすと、さっきと同じようにちりん、となった。


 綺麗な、風鈴。 綺麗な、音。


 きっと、これを作った奴は、人を傷つけたことなどないのだろう。と妬みにも似た思いが掠める。
 綺麗な奴が作る、綺麗な硝子。
 だから、こんなにも、透き通った音色。



「――――だな」
「はい? 何か言いましたか?」
 太一郎の手から奪った風鈴を梁に下げてから、おりんが尋ねた。
「寄木細工なんて地味なモンじゃなくて、こう、風鈴みたいに綺麗なもんの職人になればよかったかなって、さ」
 おどけたように、吊るされた風鈴をつついて哂う。



 大違いだ。


 俺が作った細工たちはきっと、血の匂いがするに違いない。
 躊躇いもなく殺してきた、標的達の血の匂いが。
 脳裏に焼きついて離れない、お袋の血の匂いが。


 仇を討てとまとわりつく。
 咽るような、鉄の匂い。




「いやですよ」

 おりんの声が物思いを断ち切る。
 傍らを見ると、笑みを浮かべた瞳に出会った。


「イヤですよ、風鈴職人になんかなっちゃぁ。風鈴は夏の一時しか楽しめないけど、あんたの細工は何時だって何年だって、部屋のあちこちで私達を見守ってくれてるんですから」

 諭すように、あやすように、ころころと笑うようにおりんは続ける。

「折角あんたが作ってくれたものだもの。いつだって使っていたいし、髪を飾っておきたいじゃありませんか。いまさら職を移ったりしたら承知しませんよ」
 ぽんと、袖をたたく。
 結い上げられた髪に刺さるかんざしは、先日手隙のときに作ったものだ。
 彼女を飾るソレは、先ほどまで自分が見ていた血まみれの細工とは違う。
 同じ手が、同じように作ったものの筈なのに。なぜか違うように見えた。


「そうだな。風鈴、髪に刺して歩くわけにゃぁ、いかないもんな」
「あら、娘さんの簪には、そういうのもあるみたいですよ。夏っぽくて可愛いじゃない。…あたしも付けてみたい、かな」
「…さっきと言ってることが違うだろ? っつうか、むすめさんって年でもなかろうに」
「あら、ひどい!」
 おどけた会話が徐々に心を満たしてゆく。

「ただいまぁ! 父ちゃん父ちゃん、すごいんだぜっ、三吉さんとこの猫がな!」
「ねこがー。ねこがー」
 駆け込むように帰ってきた子供達を迎え、二人は目を合わせて笑った。
 明るい日差しの中、家には笑いが満ちている。

「ありがとよ、おりん」
 自分よりも低い位置にある肩にことりと額を乗せる。
 何を思うのかおりんも「やだよ、おっきな子供がいるよぉ」と囃しながらも振り払いはせず、じっと動かない。


「あーっ。父ちゃんずるいーっっ」
「ずるいー」
 母を取られまいと群がる子供達を抱き上げながら、騒々しくも愛しい家族に感謝する。



 いつか。

 血の匂いに浮かされて、この大切な家族を泣かすのかもしれない。
 無くすのかもしれない。


 愛しい家族よりも、堪えられぬ恨みの為に死ぬ日が来るかもしれない。



 けれど、それは「今」ではないから。


 まずは、このよじ登ってくる長男と、まとわりつく次男と、傍観する女房と、呆れ顔の親父を連れて六角屋で夕飯を食べよう。
 帰り道は遠回りして川原を歩こう。
 並べて敷いた布団の中で、子供達にお化けの話をしてやろう。


 風に揺れる風鈴の音を聞きながら。

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-了-
-----------
2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品

作:KAZ-屋

小話:ガラス越しに触れる【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …KAZ-屋

「パピヨーン。3番のテーブルでご指名よーん♪」
カウンターから店の裏手に向かって、陽気な声がかかる。

ここは表通りからほんの少し路地を入ったところにある小さな酒場。
目立たぬよう、それでいて隠れぬよう、微妙な店構えの割りに客の入りも悪くない中の下くらいの店。

陽気な喧騒と、たまに訳のわからない乾杯。流れの芸人が歌い、舞う。
そんな酒場の楽屋で、パピヨンは身支度を整えていた。



「ちょっと待ってよ、姐さん。オレまだ支度済んでないって」
裏口から入った瞬間に指名され苦笑する。
手早く外套と衣服を脱ぎ、仕事用の衣装に着替える。

かじかんだ指のせいでボタンを留めるのにも四苦八苦していると、店の方から一人の女性が入ってきた。
「ちょっとー、なに支度に手間取ってるの?」
攻める口調と裏腹に、口元には笑みを浮かべている。先ほど「姐さん」と呼ばれた彼女は、この店の女主人で、看板娘(本人談)

「だって、外寒かったんだもーん。手、冷えちゃって」
ほら。と差し出された指先も、にこりと笑うほほも、冷たい北風にあおられてほんのり赤い。
「仕方ないわね、留めてあげるから後ろ向いて」
今年で17を迎えようという彼の甘えた表情に、まんざらでもない様子でウインクを返した。



「…ちょっと体がしっかりしてきちゃったわねぇ。こういう衣装もそろそろ卒業かしら?」
「そだねー。思ったより成長したし。オレ最近筋トレしてるし」
衣装に合わせたアクセサリーを選びながら告げると、背後から「えー」と不満の声が上がった。
「やだわパピヨン。折角きれいな体してるのに、筋肉なんてもったいないわよ!」

ハイ出来た。とばかりに背中をたたきながら、彼女が抗議する。
痛いよ。という彼のセリフを無視して、そのまま正面に回り、衣装に合わせて薄化粧を施してゆく。
少年とも青年ともいえない不安定な存在が、化粧と衣装のせいで女性とも男性ともいえない幻想の存在へと変化する様に、うっとりとしながら彼女は微笑んだ。

「はい。出来上がり。綺麗よぉ」
「ん。ありがと、姐さん」
にこり。と紅を引いた唇で軽くほほに口付けると、早々に店へと向かう。
それを引き止めたのは、さっさと支度をしろと急かしていた当の女主人。

「ちょっとまって、パピヨン。今日の衣装ならこんなのつけても楽しいわよぉ♪」
いたずら気味に微笑みながら強引に長髪のウイッグをかぶせる。
ゆるいウェーブのアッシュシルバー。無造作にかぶせられたため、ところどころ地毛の黒髪がメッシュのように踊っている。

「やっぱりかわいー。今日はそのままお店に出なさいな」
「えー。邪魔くさいだろ」
「そんな事いわないの。じゃ、先いってるからね、ちゃんとセットしていらっしゃい」


軽やかに店内へと戻って行く彼女に手を振りながら、地毛をまとめて、ウイッグを付け直し鏡を見る。


そこにいるのは、いつもの自分より、ほんの少し線の細い印象を受ける銀髪の青年。
似通った面差しと、懐かしい色に似た銀糸の髪が、記憶の中の青年を髣髴とさせる。




とくん。と胸が鳴った。




鏡の中の彼へ微笑めば、鏡の中の彼も同じようににこりと微笑を返す。
懐かしさに瞳を潤ませれば、彼の瞳もまた懐かしげに瞬き、手を伸ばせば、同じように彼の手もパピヨンを求めるように近づいた。

その指先を合わせれば、まるでガラス越しの逢瀬のようで



「-----にいさん」

そっとつぶやくと、ガラスの向こうの彼も、何かをつぶやいた。



----バレル……

聞こえるはずのない囁きを聴く。



懐かしいその面影をもっと近くで見たくて、熱に浮かされたようにその距離を縮める。
吸い寄せられるように唇を寄せれば、かの人も同じようにまつげを伏せた。
触れ合った唇には、冷たいガラスの感触。


その無機質な感触に、飽和していた熱が一気に冷めた。


唇を離し細く目を開ければ、泣きそうな自分と鏡に移ったルージュが重なって見える。
もう、鏡の中にあの人はいない。




否、はじめからいない。




いるのは、捨てられたくせに彼を求めることをやめられない己の残像。

指の腹を強く押し付け、鏡に残る紅をふき取り、そのままこぶしを握り締めた。




店内からは、再度彼を促す声がかかる。
BGMが変わった。どうやら客からのリクエストがあったようだ。
店内の陽気な歌声を聞きながら、鏡の中に残る幻を見ないように、もう一度だけ苦く微笑む。


「メリークリスマス。兄さん」



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パピヨン17歳


作:KAZ-屋



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ポスターまとめ【ラプラスの螺子編】

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C84用ポスター。



ポスター勢作:KAZ-屋

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