猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

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05冬しおり【職業、仕事人】

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05年冬コミで使用したしおり用イラスト。

制作:KAZ-屋

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小話:初夢【職業、仕事人】 …ふじもとたらう

神田の小料理屋、六角(むすみ)屋に件の三人が揃って姿を現したのは、薮入りの小正月も過ぎ、新春の賑わいに沸いていた町が常の形に収まった頃であった。


「そういや、なぁ。旦那方はどんな初夢、見たんだい」


寄木細工職人の太一郎が久々に顔をあわせて相席した町同心、そして当然の様に同じ卓に着いている長屋の隣人に尋ねたところ、


「俺は、見ていない」


相も変わらぬ仏頂面で応えたのは、これまた相も変わらぬ同心姿…浅黄鼠の小紋の袷に黒羽織をひっかけた崎山だ。
そもそも、ここ数年は夢なんぞを見た覚えが無ぇしなぁ、と。つまらなそうに猪口を傾ける。


「夢は見ない、ですか。旦那らしいですねぇ」


さもありなんとばかりに笑う総髪の浪人を、眉間のしわを一層深くした”旦那”が睨みつける。


「そういうお前はどうなんだ、織上の」

「私ですか。……ええと、どうでしたかねぇ」


崎山の剣呑なまなざしから逃れるように、ゆるりと中空に視線をめぐらせていた織上だったが。


「それがですねぇ。見たことは見たんですが……覚えて無いんですよ、これが」


それはもう、さっぱり。
誤魔化すようにへらりと笑う。

「何だ、それじゃあ意味が無いじゃないか。人のことは言えないだろう」
「はは。この中でちゃんとした”初夢”が見られたのは、太一郎さんだけのようですよ」
「うん…? どうしてそうなる」
「そうでなければ、こんな話を振ってきませんよ。ねぇ、太一郎さん?」

自然、自分へと向けられた怪訝そうな、あるいは好奇のまなざしに、太一郎はくうっと首をすくませた。
他のふたりより頭ひとつぶん身丈の高い太一郎だが、そうすると猫背なのも相まってやけに小さく見える。

「いや、そんな、聞いて面白いもんじゃ、なかったんだけどさ」

後ろ頭を掻きかき、気恥ずかしそうに場を見回すが、しかし助け舟は出ないと悟って観念する。


「なんつーか、その。いつも通り、だったんだよなぁ」


元気ものの妻女に賑やかな子供達、未だ現役の師である父親。

家族が居て、旦那方がいて。
いつものように六角屋の一角で、他愛のない世間話を肴に、酒を飲む。


そんな、ありふれた日常。


折角おりんのヤツが奮発して、宝船の絵を買ってくれたっていうのに…
つまんねぇ夢、見ちまった。

そう、ばつが悪そうに猪口に口をつけた太一郎は、杯の向こうに並ぶふたつの顔に、はっとする。


お上に仕える南町奉行所同心と、手鞠作りで日々を暮らす総髪の浪人。


姿かたち、まとう雰囲気すらまるで違うのに、どこか似通った、その――



「いや、それは…」
「ええ、良い夢なんじゃないでしょうか。とても」



俺たちが。
私たちが見るのなら。

上出来だろう、と。

赤黒い闇に身を浸す、昏い夜の向こうから、”こちら側”を覗くまなこが言っている。


同じ夜に身を浸す男は、ふっと、己の手元を見つめて。


違ぇねぇや、と頷いた。




「太一郎さん、それはきっと正夢ですよ。ほら、ここにこうして旦那もいる事ですし」
「お、確かに。いやぁ、ありがてぇなぁ」
「…おい、お前ら」

「おかみさーん、もう一本、いや、二本もってきてくれ」
「おい、こら、勝手に…」
「新春の散財は運が開けるというじゃないですか、旦那。ご祝儀、ご祝儀」
「正月はもう、とっくの昔に終わっている…」

「じゃあ、これはあたしからのご祝儀って事で。一本おまけにつけといてあげるよ」
「や、早速良い事が。今年は良い年になりそうですねぇ」
「ささ、旦那も一杯」
「……まぁ、いいか。おかみ、ついでに何かつまみをもってきてくれ」
「はい、はい。只今…」


年が明けても、変わらぬ日々、変わらぬ夜が来て、今日も六角屋に灯りがともる。

しかしここは、明日をも知れぬ裏稼業に手を染めた”仕事人”たちの宿でもある。

人々の恨みつらみ、血と涙に濡れた金で仕事を請け負い、彼らに代わって江戸に巣食う害虫どもを”退治”する。


「”門松は 冥土の旅の一里塚”……か」
「なんだ、そりゃ? 正月早々辛気臭ぇなぁ」
「飲みが足らないようですね。ささ、旦那」
「「飲んだ飲んだ」」
「あ、ああ……。今年もこんな調子でたかられるのかと思うと、なぁ…」
「「まぁまぁ、ご祝儀、ご祝儀」」
「お前らの正月はいつまで続くんだ……」


昼と夜、日常と非日常の境界線に身を置いて。


たとえ、行き着く先が”退治”した悪党どもと同じ場所であったとしても。

その日が来るまで。


昏い夜を退ける、このささやかすぎる灯りが、願わくば、長く、永く続けばいいと。


三人がそう、思ったのかどうか。




呑み込んだ酒がやけに腑に染みる、年の始まりであった。

tokkuri.jpg


-了-


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「門松は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」
一休宗純『狂雲集』より。

作:ふじもとたらう

小話:香 【職業、仕事人】 …ふじもとたらう

”仕事”の後にな。


あの赤い紅い鉄錆の臭いが、やけに鼻についてさ。
そいつがいつまでも纏わりついているような気がしてなぁ。
どうにも落ち着かなくて、匂い袋をひとつ、買ったんだ。

……そうしたらさ。


”やめたほうがいいですよ、旦那。逆に、臭いますし”


なぁんて事を言いやがったんだな、あの野郎が。


”お前さんは、鼻が利きすぎるんだよ”


そう返してはみたものの、確かにこんなもんで誤魔化しきれるもんじゃあ無かったんだよな、あの臭いはよ。
……すっかり染みついちまってるし。


そう思ったら馬鹿らしくて、すぐに捨てちまったな。


-了-


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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録。
崎山にもこういう時期があったらしいというお話。



作:ふじもとたらう

小話:香 【職業、仕事人】 …天崎李玖

「おや、もう帰るのかい?」

気怠い仕草で女がその身を起こす。
「そろそろ戻らないと木戸が閉まってしまいますから」
泊まっていけばいいのに、と寄り掛かる手をやんわりとほどく。

「冷たいこと。いい人の所へお帰り?」

いい人がいたらここにいないでしょう?
ゆったりと笑い、枕元に置いてあった刀をきり、と帯に差す。
女は男が武士であった事を今更ながらに意識した。もっとも、男の持つ、どこか崩れたような華やかさは、武士を演じる役者のそれに近く、気安さを違えるものにはならなかったのだが。

「隣りに綺麗な後家が越して来たんだろう?」
「よくご存知ですね。近所とはいえ、怖いもんだ」
提灯を受け取り、からからと笑う。
「女は女の話には敏感なものさ。特に後家同士ときちゃあさ」
「確かにね」
綺麗な人でしたが…
空いた手が女の頬に触れ、指が淡い紅を引いた唇をなぞった。
「赤い紅は嫌いでして。なんだか血を吐いたみたいでしょう?」

かり。
触れた指を噛み、女が笑う。
「おや赤が嫌いとは思わなかったよ。あんた、なんだかとても赤が似合うから好きなんだと思ってた」
「? 赤なんて身に着けちゃいませんが…」
「そうなんだけどさ」

「あんたはいつも赤をまとってる、そんな感じがするんだよ」

男はしばし考え。
「血の匂いがするからでしょうかね」
「え?」
「いえ、近所さまとは上手くやっていきたいものでね。わざわざお隣りの床に潜り込んで面倒の種をまいてくる気はありませんよ」
やわりと笑い外に出ると乾いた風が頬をなでた。
月をともに歩き始めた男が楽しげにつぶやく。げに恐ろしきは女の勘なり、と。

「旦那じゃないけど私も匂い袋買おうかな」
これほどしみこんだら消えるものではないけれど。


-了-
aka.jpg

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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品


作:天崎李玖

小話:雨 【職業、仕事人】 …天崎李玖

 灰をといたような空色と。
 抑揚もなく振り続き雨は。
 情けなしと恨み言を涙まじりに言う、女のようだと。
 錦糸を手繰る手を止めた男は、外をみやると、そんなことを思った。

 ふいに。
 重たい雨音に、軽やかな足音が混ざるのに気づき、織上は引き戸に手をかけた。
 立て付けの悪いそれが、出し抜けに開き。
 訪問者はぽかんと口を開け、総髪の浪人を見上げる。
「わ。鞠のお師匠様…どうして鈴がくるの、わかったの?」
「お鈴ちゃんの足音は、それこそ鈴のように軽やかですからね。…この雨の中、どうしたんですか?」
 小さな体に不釣合いな傘を織上に渡すと、あめで色濃い袖にごそごそと手をやる。
 でてきたのは。
「おや、お饅頭ですか」
「お客さんがね、鈴にってくれたの。でも、鈴一人じゃ多すぎるの。でも、でも…太一郎のおじさんちは…」
 おじいちゃんと、おばちゃんと…
 小さな指が5回曲げられるのをみやり、織上は思わず苦笑する。
「そうですねぇ、太一郎さんちで食べるには少ないですね」
「うん。だからね、お師匠様と食べようと思ったの……思ったんだけど…」
 竹の皮に包まれたお団子は、ひとつ。
「…歩いてる途中、食べちゃった。だからこれはお師匠様のぶんなの」
 織上は差し出された竹の皮をしばし見つめ。
 受け取ったそれを、ひょいと、懐にしまいこむ。
「…食べないの?」
「一人で食べてもつまらないでしょう。六角屋で餡蜜をひとつ頼みましょうね。それはお鈴ちゃんの、で、このお団子は」
 私のです。
 形のよい頤に指をそえ、ほわりと笑う。
 つられた鈴に、笑顔の花が咲く。
「さぁて、いきましょうか」
「うん!」
 手をつなごうと、伸ばされた鈴の手が空をきる。
 いつもと違う所作に瞬く目の前に傘が差し出される。
「手をつないじゃうと、お鈴ちゃんが濡れちゃうんですよ。開いてもっていてくださいね…よっ、と」
「わ!」
 ひょい、と。
 傘を持つ鈴を抱き上げ、肩に乗せると。
 すたすたと歩き出す。
「これで、濡れません」
「わぁ、高いねぇ」
「ははは…雨脚が強いですからね、少し急ぎましょう」

 普段よりはるかに高い位置から、鈴は空を見上げる。
 灰と溶かしたような、重い空の色。

「雲が…なんだか、手が届きそうだね…鈴が大人になったら、触れるようになるかなぁ…」
「うーん…私力ないですからねぇ。お鈴ちゃんが大人になったら、肩に乗せられないと思います」
「…そっかぁ。残念だね」
「というかですねぇ、お鈴ちゃんが大人になったら、私なんかと一緒に歩いたりしないでしょう?」

 なんで?

 鈴が問う。

 もう少し、大人になればわかりますよ?

 織上があいまいに笑う。


「お師匠様は、たまに泣いてるみたいに笑うの」
「?…そんなことないでしょう?」
「ううん。すごく、寂しそうだよ」
「そんなつもりはないんですけどね…私は、あまり笑うのが上手じゃないんですよ」
「そうなの?」
「はい。ですから、お鈴ちゃんがたくさん笑って、お手本を見せてくれるとうれしいですね」
「そうなの?」
「そうです」
「そうなんだ…じゃあ、鈴、大人になってもお師匠様に笑ってあげるね。お師匠様もさみしいのじゃなく、ちゃんと鈴に笑ってくれるよう、練習してね」

 にこり。

 灰色の雨の中。
 淡く、こぼれる、りん、とした笑みは。
 雨にまみれても、やさしいあり方で。
 紫陽花のそれににていると。
 男は、そんなことを、思った。



PPP_shittoriajisai500.jpg

-了-
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2007年8月17日発行のコピー誌「職業、仕事人 番外編」収録作品


作:天崎李玖


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