猫屋敷+

TRPGサークル グループねこぢゃらしの活動記録

小話:ドナドナ 【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …おじゃっく

 バタバタという騒々しい足音とともに己の部屋へと現れた客人に、レオノールは右の眉をわずかに上げた。誰かが勢いよく駆け込んでくることに驚いたのではない。そのような訪れ方をしそうにない人物であったからである。
 ラグの上にゆったりと座りながら動じることなく楽器の手入れをしていたレオノールにむかって、上気した頬、荒い息を整える暇さえ惜しんでその青年は哀願した。

「頼むっ、かくまってくれっ」
「それはかまわんが… レッド、隠れるならそこに衝立がある」

 今しがた勢いよく開け放った扉を、音を立てないように慎重に閉めてこちらに向き直ったレドルゥインは、追い詰められた草食獣のような表情をしていた。
「ありがとう、レオ。詳しいことは後で話すからっ」
 安堵したレドルゥインが背後を気にしつつ部屋を横切り、示された壁と衝立の隙間にもぐりこんでから幾度か呼吸をした後。タッタッタッという軽い足音が響きコココンと扉がノックされた。

「れおー、いるー?」

 幼い子供のような言い回し。どうやら原因の到来のようだ、と、レオノールは心の中で微笑んだ。
「開いている」

「ねぇーちょっと聞いてよ。ひどいんだよ?」
 戸口からひょこっと顔をのぞかせて部屋の中を見回した後、アクリエルはちょこんとレオノールの隣に座って言った。
「レッド、私を置いてどっかいっちゃったんだからっ!約束したのにっ」
「そうか」
 ぷんぷん、という音が似合いそうな怒りの放射にレオノールは我知らず苦笑した。

「レッドがね、故郷で妹の髪をよく結ってあげてたんだって。それでね、『じゃあ私の髪もイーストエンド風に結ってくれる?』って聞いたら『いいよ』って言ったのに途中で止めちゃったの」

 あぁ、そういえば確かに。とレオノールは思った。今のアクリエルの髪は下の方を、それも素っ気のない黒い紐でくくられているだけだった。いつもならばこのような低い位置で髪をまとめはしないし、結い上げた髪は鮮やかな色のリボンで飾られているだろう。

「レッドがね、優しく髪を梳いてくれたの。『アクリィの髪は柔らかいな』なんて言ってくれたんだよ?でも、もっとして欲しかったのにすぐ梳き終わっちゃって、こう、ね?」

 強めの口調の中に幸せを滲ませながら、アクリエルはレオノールに背を向け、髪を持ち上げて高い位置で一つにまとめる仕草をした。

「ここまで持ち上げたところで手が止まっちゃったの。それでね、あれって思ってたら、急に手をおろしてこの紐でまとめて『ごめん、アクリィ!』って言って走って行っちゃったの」

 持ち上げていた髪を崩さないように手をゆっくりとおろし、背を向けたままアクリエルは続けて言った。

「逃げられたら、追っかけたくなるじゃない!でも、今日のレッドすっごく足が速くて見失っちゃったんだ… ねぇ、私、わがままだったかな?レッド、怒っちゃったのかな?」

 くるりとレオノールに向き直ったアクリエルは、口調とは裏腹に悲しげな瞳をしていた。
「アクリィ…」
 レオノールはすっかりしょげてしまったアクリエルを前にして、衝立の陰で、事の顛末に慌てているであろうレドルゥインのことを思った。飛び出して謝罪したい気持ちと、そうするために真実を口にすることへの躊躇に揺れているであろう友人のことを。

 匿うと言った自身の言葉の重さは、アクリエルの悲しみとレドルゥインの苦悩より軽い。己の言質を売り渡してでも執り成してやらなければならないな、とレオノールは思った。

「アクリィ、レッドはアクリィに似合う髪形に迷っただけだ。気に病むことはない」
 ぽん、と、アクリエルの頭に手を置いたレオノールは、顔を上げたアクリエルに向かって右眼を閉じた。そして、あごで衝立を指し示す。

 パッと顔を輝かせたアクリエルは、勢いよく立ち上がり衝立に向かってかけていった。

「レッド、みーつけたっ。」

 精悍と呼べる身体を狭い隙間に埋め、不安定な姿勢でかがみこんでいたレドルゥインの右手にアクリエルが両腕を絡ませて引っ張ると、さすがのレドルゥインもたたらを踏んで部屋の中央に躍り出た。アクリエルはその勢いを殺さず跳ねるような足取りで扉へと向かう。

「ね、レッド。買ったばっかりの赤いリボンがあるの。結んでくれるよね?それから、この髪形に合う服も欲しいなぁ。前に行った市場のイーストエンド風のお店、あそこ行ってみよう?ねっ?じゃーねっレオ、ありがとね!」

 それはレオノールにとって、意気揚々とレドルゥインをズルズル引きずって部屋を去っていくアクリエルの弾んだ声と、「あぁ」とか「うん」とか呟きながら連れられて行く、動揺と照れと諦めの混じる潤んだレドルゥインの茶色の瞳がやけに印象に残った、ある爽やかに晴れ上がった午後のことであった。

- - - -
作:おじゃっく


自己反省 04.10.17
サブタイトル『レッド、アクリィのうなじにどぎまぎの巻』(笑
ドナドナは牛の潤んだ瞳がポイントかなと思ったのが発端でした。ごめんよレッド。君が一番牛っぽい目をしてくれそうなんだもの。レオも、彼ならこんな行動とるかな?と思ったのですが大違いだったらごめんです。あと、アクリィをもっと可愛い女の子に書きたいです。精進です。


>>目次へ

小話:初春 Adonis 【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …おじゃっく

!! Caution !!
※本編エンディング後の内容を含みます※



ふいに、分厚い樫の鎧戸が身を震わせて静寂を破った。
読んでいた本から目をあげ、閉ざされたままのそれを見やる。
窓の外ではまだ重く湿った雪が降り続いているのだろうが、何十年も風雪に耐えてきた雨戸越しでは外の様子はうかがうことはできなかった。

この地方では、毎年春が間近に迫った時期に名残を惜しむかのように吹雪が訪れるということを聞いたのは、旅の足留めを余儀なくされた2日前の朝であった。
「お客さんは運がいい。この峠を越えてしまえば真冬だってろくに雪が降らなくなる。この冬最後の雪を楽しみなされ」
山の中腹に位置するちいさなこの町唯一の酒場兼宿屋の老主人は慰めるようにそう言いながら、彼と同様に古めかしく、落ち着いた雰囲気のこの部屋に案内してくれたのだった。

そろそろ正午にさしかかる頃だろうか。
退屈しのぎになればと昨夜宿の主人が貸してくれた本には、世界に満たされた法則に関する事柄がわかりやすい言葉で綴られており、世知に長けた友人達から何度か聞いたことのある言葉もあったりしたものだからずいぶん集中して読んでいたようだ。

区切りのいいところまで読んでしまおうと再び本に目を落とし数文字読み進めた時に「レッド!」と後ろから呼びかけられた。
その明るい声につい微笑し、眼を上げ腰をひねって振り向くと、身にまとった衣装の様に頬を染めたアクリィの姿があった。
あぁ、アクリィだ。そう思い見返した顔がそのまま近づいてくる。肩まで届く銀糸の髪。桃色に染まった頬。軽く閉じたまぶたは翠玉の瞳が透けて見えるのではないかというほど白く、またそれを愛らしく縁どる柔らかなまつげは銀細工のように繊細。そして、窓外の新雪のように透き通る肌理の細かい肌に見ほれると、温かいものがそっとくちびるに触れた。

ぱたん、とちいさな音をたてて膝から本が滑り落ちる。

1秒

2秒

そして彼女の肩からこぼれた髪が二人を包むように下りてくると、何か瑞々しい甘い香りがふわりと感じられた。
我知らず、頬をくすぐりさらさらと流れる髪に手をさし入れ、抱き寄せようと手が動くが、それが細い腰に到る前にふっとここちよい温もりが離れた。


「春がね、来たんだよ」


大切に大切に、胸の辺りでふたつのちいさな手のひらに包み込むように抱えていた物をアクリィはそっと差し出した。
彼女の夢見るような笑顔に誘われて覗きこむと、そこには根付いている黒土ごと運ばれてきた可憐な黄色い花がつぼみをほころばせていた。
「さっきね、雪がやんだの。嬉しくて窓をあけたら森がね、おいでって呼んでるような気がしたの。きっといい事だって思ったから急いで行ってきたの。やっぱり私の勘ってアタルよね!」
アクリィは嬉しくてたまらないということはこういう事だと言わんばかりに、まっすぐに目を見つめて弾けるように一息にしゃべるとまた手許の花に目を向ける。
「この花に会えるともうすぐ森に春が来るの。花も木も草も動物も目を覚ますめざましの香りなんだよ」
アクリィはそう言って可憐な花びらに色めいたくちびるを寄せた。
「だからレッドにもおすそ分け。もう冬も終わったんだし家に閉じこもるのはやめようよ!おじさんが、安全に峠を行ける道を教えてくれるって」
見たことのない景色を見たいと、目を輝かせてワクワクしている無邪気な顔を見あげると、自分の鼓動まで高鳴ってくる。

急にアクリィの顔が見られなくなって、足元に落としてしまった本を拾いあげながら言った。
「アクリィ、この花を俺の国では福寿草って呼んでるんだ。新しい年を祝い幸福を招くってされてる。きっと良い旅を運んでくれるよ」
そうあればいい、と心から願う。
今は離れた仲間たちにも。これからもずっと、こうして並んで歩いていくアクリィにも。
「早速ご主人の所に行って話を聞こうか。この花も鉢に移してあげないといけないし」
イスから立ち上がり微笑むと、それは名案とばかりにアクリィも顔をほころばせた。

「それに」
アクリィの手ごと手のひらで包み込みながら福寿草を引き寄せて言った。
「いくら福寿草にとはいえ、いつまでもアクリィを取られるのはイヤだからね」
女神の祝福を受けた柔らかな花弁にくちびるを落としてからそのまま顔を上げると、彼女の桃色だった頬が見る見るうちに赤く染まっていくのがわかった。

跳ねるように歩くアクリィと一緒に宿の主人の元にむかいながら、今度からキスの時目を閉じないほうがいいかもな思うレドルウィン・フォン・フレイムであった。

hukujusou03.jpg
- - - - 
作:おじゃっく
自己反省 05.01.01
以前書いたものを再修正してアップしました…が、おのれの妄想の突っ走りっぷりに我ながら背筋が薄ら寒くなります(^^;
レッドは自分の気持ちに気がつくと恥ずかしい行動を意識せずに取れる人だと中の人が言ってたので、これくらいはありかなと思うのですがねー



>>目次へ

小話:春カレー【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …KAZ-屋

!! Caution !!
※本編エンディング後の内容を含みます※





ほほを掠める風に、昨日には感じなかった暖かさを感じてぱぴよんは目を細めた。
一つ二つと、桃色の花びらが目の前を散ってゆく。

「ああ、もうそんな時期か」

誰に聞かせるともなく一人ごちて、ふと苦笑した。最近どうも独り言が多い気がする。
「年かなぁ」そんな思いまでもが独り言として口からこぼれ、己の失笑を買う。


既に冒険者としては古参の域に入った頃から、一人旅をすることが増えた。
特に一匹狼を気取ったわけではないが、ひとつのパーティーに長居することなく、根無し草のように漂う。そんな生活のうちにいつのまにかついた癖。

ふと、歩いてきた過去を漫ろに思い出し、過ぎた年月に思い馳せた。
年を重ねた分程に人として成長したとは思えないが、過ごした季節の数だけ、確実に年輪は増えている。
それを証明するように、最近では旅のペースが随分とゆったりしてきたし、無茶が減った。
今日とて、この町に寄ったのは、ここから数日を逗留する宿を求めての事だ。
5年も昔なら適当なところまで歩いて気ままに野宿でもしていたろう。


気持ちは若いままだったが、気がつくと人並みに年は取っていたようだ。
「さて、ほけっとしてないで宿でも探すか」
すっかり定着した独り言を伴って、まだ遠い喧騒へ向かって歩き出した。





街は午後の活気に満ちていた。まだ日が高いこともあって種々様々な格好の人間が
歩いている。大半が、前あわせの洋服を帯で留めた「キモノ」を着ている。どうやらイーストエンドの圏内に入ったらしい。
あの戦いから十数年、旅の間幾度かこのあたりに来た事があるが、この服装を見ると彼を思い出す。

戦闘時は西方風の鎧を身にまとっていたが、普段身に付けているのは東方風の物が多かった。夏祭りの時期などは、皆でユカタを仕立てて身に付けたこともあった。
「・・・なつかしいな」
つぶやくとともに、今日の方針を一つだけ決定した。
今日は部屋着にユカタを置いている宿を探そう。


見つけた宿は、街中から程よく離れたイーストエンド風の建物だった。
5日ほどの逗留を告げ部屋を取る。部屋の調度もやはり東風の造りで、幾度か尋ねた彼の部屋を思い出す。
クローゼットを開いてユカタを取り出すと袖を通す。頼んだわけでもないのに、懐かしい濃い鼠色のユカタに思わず見とれた。


「せっかくだから皆色を合わせてみたんだ」
そういって彼が取り出したユカタは、紺桔梗・山吹・紅梅・萌黄・唐茶など屋敷中の分を作ったらしかった。
わざわざ一着づつ染料の指定までしてあつらえた品だったらしい。楽しそうに聞きなれない色の名を解説する彼自身は紅海老茶色を身に着けていた。


黒だけは、縁起が悪いからこれで勘弁してくれ。と取り出されたのは濃い灰色に薄い灰が柳のように散ったものだった。墨染めは弔いの色だからさ。と言った彼の表情を覚えている。
たしか、藍墨茶 という色だと言っていた。



結局ユカタのあわせを間違い、弔いどころか自らが死体となってしまっていたのを宿の女将に笑いながら直され、そのまま夕涼みをかねて街へ出た。

たどりついた時は太陽が頭上を越したくらいだったが、今は随分と地平に近くなり、空気を蜂蜜色に染めている。あと数刻もしないうちに空を朱に染めて去っていくだろう。

ユカタにゾウリのまま夕暮れ時の街をふらふらと歩く。途中雑貨屋によって東風の小銭入れを買って帯に差し込む。店主が「粋だね」と一声かけて送り出す。片手を挙げて葡萄茶の暖簾をくぐり通りへ戻った時。ふと、何かが気にかかり、足を止め
た。
なんてことはない町の大通、その一角。一瞬だけ「何か」に気をとられた。


殺気ではない、けれど、見逃せなかった何か。
何者から発せられたというよりは、自分が勝手に感じ取った違和感。

いや違和感というには妙に穏やかな感覚。
そう、とても懐かしい人にあったかのような。
思わずあたりを見渡す。ひょっとして意識もしないほど視界の隅に、見知った顔を見つけていたのではないかと思って。
しかし期待は外れ、誰も---誰かに似た人物さえ見つけられない。

思い過ごしかと歩を進めようとしたとき、風がその正体を運んできた。
「…カレー?」
風に乗ってきたのは嗅ぎ慣れた香辛料の香り。
元をたどるとそう離れていないところにある食堂からのようだ。

誘われるように店の前までくると、暖簾に漢字で店名が書いてある。
「…?た・や?」
とりあえず読む努力はしてみるが3文字あるうちの最初の一文字が読めない。
東方語も日常会話と簡単な読み書き程度は覚えたが、画数の多い漢字になるとお手上げだ。とはいえ、店名が読めないから食事ができないわけでもない。店員に聞けばすむ事だと、そのまま暖簾をくぐる。

「いらっしゃいませー」
店内にカウンター席と、テーブル席が3つ程のこじんまりとした造りだ。厨房はカウンターのすぐ向こうにあるらしく、調理師らしいおばちゃんが湯気の向こうにたってニコニコと笑っていた。

白い割烹着と三角巾を身につけて立つ様は、カレーの香り以上に懐かしい場所を思い起こさせた。
目を細めながらカウンターに座る。メニューを見ると東方語と共通語が併記してある。ありがたいと思いながら読み進めるとやはり懐かしいラインナップ。
大衆食堂では、こういうものは皆似た感じになってしまうのもなのだろうかと首をかしげながら、遠い昔に身についた習慣が無意識に注文をする。
「カレーうどんとライス。大盛りで」

カウンターの向こうのおばちゃんは「はいよ」と景気のよい受け答えとともに、うどん玉を目の前のなべへと放り込む。
カレーうどんとライスのセットは5分も立たないうちに並べられた。あまりの素早さに目を見張る。
「なんか、似すぎ」
思い出の場所にどこまでも似て、苦笑を隠さず箸を割る。いただきます、と呟いて

カレーうどんを一口食べ、一瞬躊躇。
二口を食べ長考。
残りを一気に完食して眉間にはしわが寄っていた。

カウンターの向こうではおばちゃんが客の不信な様子に気遣わしげな顔をしている。
「-----…だ」
胸のうちに湧き上がったものを、小さく、ほとんど聞こえない声で、つぶやいてみた。
口にしてみると、もうそうとしか思えない。
「…オザックの、味だ」
空になったどんぶりの、底に残った山吹色を見つめる。

間違うはずがない。
ここが例えあの街から、あの店から、遠く隔たってようとも、どれだけの時間が過ぎていようとも。
今自分が食べたのは、彼のカレーだ。

間違う、はずが、ない。


「----おばちゃん…?」
「----はい?」
緊張が伝染したのか、応える声が硬い。
「---この店の名前って、なんて読むんだ?」
「は?店の名前?ああ、漢字だから読めなかったのね」
見るからに緊張した客からの質問が、あまりに普通のものだった所為かほっとしたように相好を崩した。
「『かまだや』って読むんだよ」
「----------!!」
「慣れた風だったから、てっきり地元の人かと思ったら、旅の人だったんだねぇ」
それじゃ、読めないよねぇ。と苦笑交じりに言葉を続ける。
「本店は『KAMADA屋』って書くんだけどね。ここは東方風に漢字にしてるのさ」
「本店?」
「そう。この店は4番目の支店でね、オエドにあるKAMADA屋が本店なんだよ」
話し好きらしいおばちゃんは、カウンターから乗り出すようにして語り始めた。


本店は大旦那---ドワーフなんだけどね---カレー一筋を掲げて立ち上げた店だった
んだよ。オエドでは結構な人気だったみたいだね。昔から。
10年くらい前に娘婿が店を継いだらしいんだけど---ハーフエルフだってんだから驚いたよ、あたしゃ。
エルフとドワーフって言えば、犬猿の仲ってのが相場ってもんじゃないかい。

それからさ、アレクラストのあっちこっちに支店を作り出してね。
今じゃここも含めて6店舗くらいあるはずだよ。

それだけ作れば味も変わろうってもんなのに、2代目がまたマメでね。
何が何でも味は変えないって、定期的に支店を回ってチェックしてくんだよ。ほら、あそこの紙、抜き打ちで来ては味のチェックして、判子を押して帰ってくのさ。
だから、この店でも本店と味がおなじなんだよ?
香辛料だの何だの、全部2代目が持ってくるんだよ。これ以外使うなってさ。すごいこだわりだよねぇ。

なんだかんだと、その2代目を気に入っているらしいおばちゃんは、どんどん饒舌になってゆく。


昔は冒険者だったらしいんだよ。ひょろっとしてて、旅なんか出来そうもないように見えるのにねぇ。ああ、2代目のことだよ。
なんでもそのときの仲間が、いつどこででも自分のカレーを食べれるようにしたいんだとさ。
みんなの故郷でいたいけど、みんな旅ばっかりしてぜんぜん帰ってこないから。
故郷の方ををいっぱい作っとくことにしてみたなんて笑ってたよ。
このカレーを食べると、きっと一瞬でも戻ってきたような気になるだろうからって。だから絶対に味を変えるわけにはいかないんだとさ。
いい話さ。仲間思いの、いい人だよ。
---しかも、結構いい男だしね。

おばちゃんは、そういってにんまりと笑った。
つられて俺も笑った。

ああ、なんて。
なんて言ったらいいんだろう。
いつともわからない、たった一口のために、彼のした努力に。

もう、ずいぶん昔の彼しか思い出せないが、きっと今会ってもハーフエルフの彼は
、ドワーフである彼の細君は、あの頃とそう変わりない様子でいるだろう。

---わしのカレーはうまいじゃろう?

そう言って、揃いのエプロンをして笑うだろう。
そんな彼に、自分はなんと返したらいいだろう?

「---すごいやつだな」
かみ締めるように、つぶやいた。
「そうだろ?すごい人さ」
おばちゃんが太鼓判を押した。

涙が出るかと思った。



「ごっそさん。今度その2代目が来たら、美味かったって言っといてよ」
買ったばかりの銭入れから代金を置き席を立つ。
「はいよ。ありがとさん、ちゃんと伝えとくよ」
背中からおばちゃんの声がかかる。
ふと、思いついて振り返った。
「もうひとつ、伝言頼まれてくれるかな」
「なんだい?」
「ありがとう、って。あの頃とまったく変わらない味で、懐かしかった。と」
「え?」
おばちゃんの驚いた声を聞きながら店を出る。萌葱の暖簾をくぐると、夕闇が広がっていた。

「故郷をたくさん・・・ねぇ」
彼の思いと優しさが、胸にあふれるのを感じる。
遠く離れて、滅多に逢うことのない仲間へと送られた彼の情が、心にしみこむ。
それは、久しく忘れていた幸せの感覚。
伸びる影を追いながら、あの日の仲間たちを思い出した。
まだ若くて、突っ走っていて、いつもギリギリで、でも互いに優しかったあの頃を。

「たまには、KAMADA屋にも行ってみようか、な」

つぶやく独り言が、夜の帳に吸い込まれた。



FIN 2006.04.07



小話:変り種【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …天崎李玖

何を言われたって。
なんと言われたって。
それが自分らしいから。
胸をはって。
空を見上げて。
前に進もう。


とても、とても、昔の夢を見た。
薄暗い、でも優しい土の匂いに満ちた、故郷。

「やぁい、オザックのばぁか!」
「こんなもんも作れないのかよ。お前なんもできないのなー」
「俺の弟だって、これくら持てるぞ。すげぇひ弱!女より弱いじゃん」

はやし立てる子ども達より、ずっと細くて白い手が、ぎゅっ、と握られ。
何か言いたいのに。
こんな時は何も出てこない。
悔しい、悔しい。
足がぶるぶる震えた。
怖いからじゃない。悔しいから。

「こいつ捨て子なんだろ?」
「なまっちろい、耳とんがりの取りかえっ子!草臭いからこっちくんなよな!」

腹が立つ。どろどろと熱いものがあがってくるような。
ああ。
なのに、どうして、自分は何も言えず、そこにたっているんだろう。
そんな。
昔の夢を、見た。


「…寝覚め、悪いのう…」
なんだか、血の味がしたような気がした。


わいわいと廊下で声がする。
早起きな連中はもう、起き出しているのだろう。
中庭に面した窓から外をのぞくと、レッドが剣の素振りをしていた。姿は見えないが、元気に朝の歌が聞こえてくるので、レオも起きているのだろう。
「ふむ…」
…あの、いじめられていた子どもの横にレッドがいたら、どうだったんだろう?

『お前達!ひどいまねはやめろ!俺が承知しないぞ!』

「…問答無用に突撃、じゃな」
当の本人だったとしても…やはり、突撃、なような気がした。

「レオとかパピヨンだと…」

『…ふん』
『けっ』

「一言で終わりそうじゃのう」
思わず、笑みがこぼれる。

「アクリィは…」
影で行われそうな報復の数々を思い浮かべ、思わずマイリー神に印を切る。
「考えるだけで怖い…」

身支度を調えながら、そんなことを考えていく。
仕上げに、と、バイキングキャップをかぶりかけ、手がとまった。

「ワシは…本当はどう、言いたかったんじゃろうなぁ…?」

手入れは行き届いているが、かなりの年月が刻みこまれたバイキングキャップ。
しっかりとした、重み。

「こういうことじゃろ?」

バイキングキャップをしっかりかぶると、鏡に向かって、にい、と笑ってみる。
鏡で笑っている、金髪のハーフエルフ。
「これが、ワシじゃ」

…寡黙なのがドワーフの身上。
言いたいことがあったとしても、多分言わなかっただろうから。
貫き続けた年月の重みが、全てを語るのなら。小さな自分は語る言葉を探すべきでなく。ただ、進むべきだったから。

「みんなと違う?それが何だと?お前が一族の誇りを持って、神の教えの通りに生きているなら、それは恥じるべきではないわ!」
いつも堂々としていた父。

「オザックは私たちの大事な息子だもの。私たちの誇りだよ。大好き」
いつも変わらず優しかった母。

旅立ちの時、別れを惜しんでくれた、友も、いた。

恥じるべきは。
周りと違うと、嘆いて動かない自分。
いつだって、立ちふさがるのは、自分。

「まずは自分との闘いということですね、マイリーよ」
ぺちん。
頬を軽くたたく。
おかしな夢でぼんやりしていた頭がすっきりしていくような。


胸を張って。
今日も元気に歩いていこう。


「さて、今日もうまいカレーを作るぞうっ!」

イエローゾロは今日も元気だ。



オザさん、ちょっとメランコリックになる、の巻。彼の視点から、の子どもゾロ、ですので、多分実際は違うと思います。
パピさんとか小さい頃はいじめられっ子属性なような気がするんで。ドワーフの子どもって「じゃ」って言うイメージがなかったので普通の言葉しゃべってます。




作:天崎李玖


目次へ

小話:ドナドナ 【イチゾロ戦隊ゾロッター】 …天崎李玖



ある晴れた、昼下がり。
市場に続く道。
道ばたで、『それ』と目があった。

カナシイヒトミデ、ミテイルヨ…



「ふんふんふ~ん」
この炎天下。
全身黒ずくめの男はことのほか、ご機嫌だった。
今日も、いい天気だなぁ。




K亭の庭。
とてつもなく大きなたらいが芝生におかれ。
水を満たしたそれにはアヒルやらなにやらがぷかぷかと浮いていた。
泳げる程の大きさではないが、縁につかまったアクリィが軽くバタ足をするくらいは広かった。

「あっっっついよぉ!」
ばしゃばしゃ。
水滴が刺さるような光をはじいてところどころで虹を作った。

「まあ暑いが…だからこうやって涼んでるんだろうが」
涼しそうな顔をしているレオだったが、膝から下はしっかりたらいの中だったりする。

「レオも入れば?」
「水が半分になりそうだから、いい」
「確かにね」

くすくすと笑いながら、すぐそばで、串に刺した肉やら野菜やらを汗だくで焼いているハーフエルフに目をやる。
「…やっぱり、あれ、暑苦しくない?」
「…とかいいながら、焼けたら食うんだろ?」
「ぴんぽ~んっ!」
「しかし、本当にオザック暑くないのか?」
「うん?」
バイキングキャップからねじりはちまきにマイナーチェンジしたオザックが、さわやかに…そう、なんだか嫌になるくらいさわやかな笑顔で答える。
「何を言う!猛暑のバーベキュー!!これこそ醍醐味じゃっっっ!!光る汗!それが最高のスパイス!」
「…よくわからんが、本当にスパイスにするなよ。食えなくなるから」
「任せておけぃ!料理も闘いじゃ!」
「…オザック、暑さでやられちゃったんじゃ…」
小さなじょうろでレオに頭から水をかけられながら、眉をしかめるアクリィだった。

「おーい!3人とも~」
レッドとユーリがなにやら抱えて現れた。

「暑いだろ?メイドさんたち特製のかき氷と…」
「Kさんがくれたスイカでーすっ。よく冷えてますよっ!」
「やったぁ!レッド、あたしイチゴ味っ」
「私は抹茶がいいな」
「ワシ、カレー」
「「「あるかっっっ!!!」」」
「冗談じゃ。メロン味くれ」
「「「……。」」」


夏、である。

真っ白で大きな雲。
抜けるような青空。洗い立てのシーツを広げたような。

「んー、ごちそうさまっ」
「アクリィ、スイカ切ろうか?」
「食べる食べる~!」
「ちんちくりん、舌、真っ赤だぞ」
「はうっ」
「ワシの舌も緑じゃ」
「私の舌はふかみどり」
「レオさん、一番不気味です」
「ミステリアス、と言ってくれ。…ところでパピヨンは?」
「そういえば、見かけないなぁ?パピヨンの分のスイカ、とっておいた方がいいよな?」
「冷えてるうちに戻ってこないですかね…ってパピヨンさん!」

声をききつけたか、裏門から庭へとやってくる黒い影。
なにやら大きな箱のようなものをもっていた。

「よう!なにやってんだ、お前ら?」
「なんというか、今日は出動もないし、涼んでるよ。パピヨンはどうたんだ?」
「うん?や、暑いからさ。ちょいと涼しいモンでもないか、市場の方、ひやかしてた」
「スイカ食うか?」
「おう。…と」

大きな箱を、さほど重そうでもなく傍らに置き、スイカに手を伸ばす。

「パピヨン、それなぁに?」

ふふん。
スイカの種を頬につけ、パピヨンが不敵な笑みを浮かべた。

「市場で買ったんだ。すっげぇぞ」
「…なんですか?」

のぞき込んだユーリの顔が。

「ぱぴよんさん…」

真夏にふさわしくなく。

凍り付いた。

「どうした、ユーリ…!?…こ、これはっっ!!」
「レオどしたの…あっっ!!」
「アクリィ?…うっ?!」
そして、串から手を離したオザックが。
「なんじゃこりゃああああああああああああ!!」

もきゅ。

もこ。


「「「「グリズリー…?!」」」」


生まれて間もないくらいだろうか。
人間の赤ん坊くらいの大きさの、もっさりとした小熊が。

4匹。

しかも。

「ピンク、黄色、青…こ、これ…」
呆然とつぶやくアクリィの声を塗りつぶすような、さわやかなパピヨンの笑顔。

「すげぇだろ?!俺もこんな色のグリズリー、初めて見た。新種だな!」

「いや、それは色を…」
レオの声は迫力に負け、尻つぼみになって消えていく。

「それ、市場で買ったのかい?」
心なしかレッドの笑みがひきつっていた。

もきゅもきゅ。

パピヨンの手にかわいらしくじゃれるグリズリー。
彼の手から血がふいている様な気がするのは…多分気のせいだろう。

「ははははっ。かわいい奴らだなぁ。じゃれるなよ」

多分、気のせいだろう。

「ピンクの奴が特にやんちゃでさぁ。がぶがぶ噛んできやがるんだ。すげぇ、かわいいよな」
「……」
「それ、どうするんじゃ?」
「飼って増やすにきまってるだろ?頑張ってねぎったんだ。…これはほりだしものだな」
「増やすのか…」
「増やすのね…」
「増やすんですか…」

気まぐれな夏の白雲。
心なしかかげってきたような。

「大丈夫だって、お前らにも利益はまわすからよ」
「…そんな心配はしていない」

ぼそ。
「ってか、だまされてるわよ。レッド、教えてあげなさいよ」
「…ごめん。俺にはっっ、そんな勇気はない…っ」
ぼそぼそ。
「レオ、あなた友達でしょう?!」
「ちんちくりん…そんな残酷な事を私に言えというのか…?!」
「ああっ、パピヨンさんっ、だまされてます~。屋台のひよこよりタチ悪いです~」
「しかし、何で市場でグリズリー売っとったんじゃろうのう…」
「売ってても普通かわんだろ…あ、オザック、そのタマネギとトウモロコシの串くれ」
「あたし、お肉」
「二人とも現実逃避かい…俺も、ニンジンのやつ…」
レッドが悪魔(?)魂をうったその時。
空はますますかげりをみせて。

上機嫌にカラフルグリズリーと戯れるパピヨン。
黙々とバーベキュー串を手にする5人。

そして。


ぽつ。
ぽつん。
ぽつん、ぽつん、ぽつん。

「あ、雨…」
伸ばしたアクリィの手のひらに、ぽつぽつとまばらに、すぐにリズミカルに粒が落ちてくる。

「おっ。これで少しは涼しくなるなっ」

串を元に戻したレオが憂鬱につぶやいた。
「パピヨン…それ」
「うん?どうした?…?」

もきゅもきゅ。
グリズリー達は久しぶりの雨を喜ぶかのように、無邪気に手を動かす。
ほほえましく眺めていた、パピヨンの顔に疑問の色が浮かんだ。
「うん?…なんだか…」
草むらに水たまり。
雨の中、誰も屋敷に入らず、何とも言えない笑みを凍り付かせたまま、それを見守った。

沢山の水たまり。
その中に。
桃色。
黄色。
青。
色とりどりの水たまり。

レッドはきつく唇をかみしめた。
リーダーとは因果な役割だ。
他人が言いにくい事でも、あえて言わなくてはいけないときもある。
ああ、ファリス。
これが俺にかされた試練なのですか?!←多分違うから。

「パピヨン…」
「レッド!!」
「いいんだ、アクリィ。俺が…言うさ」
ふっ。と。
レッドの笑みを映すアクリィの瞳が涙に揺れた。
「レッド、ひどいっ。ひどすぎるわっ!!あたし、もう、耐えられないっ」
「レッドさん…」
「レッド、お前が言うくらいなら、私がっ!」
「大丈夫だ、レオ。これは俺の仕事だよ」
「…ワシでは…何もしてやれんからのう…」
「パピヨン…」
「レッド?」
「パピヨン…それは…それは…っっ」

ばしゃっ。
レッドの拳が血がにじむほど、握りしめられ。
絞り出すように、言った。

「それは…ただの、グリズリーだっっ…」
「なっ…」

もぎゅもぎゅ。
あどけないグリズリー達は雨に洗われ、その真の姿をあらわにする。

パピヨンの体が力なく、崩れ落ちる。
「それじゃ…俺は…」

「…だまされたんだろ。市場の親父に」

レオさん、身も蓋もありません。

「それ、どうするの?パピヨン、自分でなんとかしてね?」
「ワシでは…何もしてやれんからのう…」
それしか言えないのか、あんたは。
「パピヨンさん…。考え浅すぎます…っ」
ユーリの一言がずん、と背中にのしかかる。
そして。
「パピヨン…頑張れよ…」
レッドの友情スマイルが、パピヨンの目には痛かった。






そのご。

どごおおおおおっ。
「いてぇっっっ?!お前らっ、うりさばくぞっっ!!」
どがああああああっっ。
「うごごおおおおおおおおおおっっ」

「あれ、懐いてるのかなぁ?」
「うん。しつけはできてるみたいだよ。トイレもご飯も完璧らしい」
「まあ、あれだな。人を襲ってはいけないということは学習できないみたいだな」
「それが一番まずいんじゃないかのう…」
「僕、パピヨンさんの部屋で眠れません…」


グリズリー達が森に帰る頃にはパピヨンのファイターレベルがあがったとか、あがらないとか。




ネ…ネタモノです…。いや、グ●ーミー好きなんですよ。
ギャグ苦手なんです。本当、申し訳ない…



作:天崎李玖


目次

該当の記事は見つかりませんでした。